最新記事

歴史問題

韓国教科書論争は終わらず

2015年11月24日(火)14時28分
シム・ギュソク

 金は、こうした家族の「黒歴史」と、韓国の一流企業やメディア幹部との血縁関係を目立たないようにしようと必死になってきた。また、歴史教科書の国定化をイデオロギー的に支持するニューライト(新保守運動)にも肩入れしてきた。

 しかし正統性を確保するだけでは、有権者の十分な支持は得られない。韓国の政治では、地域性も政党支持に強く影響を与える。右派政党も左派政党も、来年の総選挙を前に派閥抗争を抑えて党内をまとめ上げるとともに、極端な主張を抑えて穏健派の支持を取り付けるという課題に直面している。

 セヌリ党内では、金が大統領選出馬を視野に入れて、独自の支持基盤を構築しようとしてきたが、大統領派に阻止されてきた。そこには朴自身の意向が働いているとされる。

 しかし朴を公然と批判して、党要職の辞任に追い込まれた劉承皎(ユ・スンミン)前院内代表とは異なり、金は教科書国定化を積極的に支持することで、朴の支持を勝ち取る道を選んだ。

 それは朴が、「選挙の女王」とあだ名されるほど、巨大な影響力を持つからだ。セヌリ党が昨年4月の旅客船セウォル号沈没事故への対応をめぐる批判から立ち直り、今年4月の補欠選挙で大勝を挙げたのも、朴個人の人気によるところが多い。だとすれば、次期大統領の座を狙う金が、教科書国定化問題で「朴の味方」を演出しようとしたのは当然かもしれない。

 しかし冒頭に述べたとおりこの問題に関して世論は真っ二つに割れた。とりわけ学識者、学生、それに一部の保守派の間からさえも、反対の声が上がった。

 その一方で、教科書論争は保守的な有権者の間における、セヌリ党に対するもどかしさを払拭する効果があった。金ら国定化支持派は、従来の検定式教科書は、北朝鮮に寛容な表現が目立つと主張し、それを擁護する野党は北朝鮮のシンパだとレッテルを貼ろうとした。

左右とも焦点は総選挙

 こうした戦術は時代遅れだし、事実とも一致しない可能性がある(従来の検定教科書に北朝鮮に融和的な表現はないとの指摘もある)。しかし北朝鮮を敵視する有権者の支持は集まった。民主化以降の選挙で、「北朝鮮カード」は強力な役割を果たしてきたから、選挙戦略としての効果も期待できる。

 一方の左派は、教科書問題への対応でも派閥抗争に忙しく、政権を担当する準備ができていないことを印象付けた。最大野党の新政治民主連合は、2月に文在寅(ムン・ジェイン)代表が選出されて以来、党内の亀裂が深刻化している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏が首位 左派は敗北へ

ワールド

ケネディ米厚生長官、2028年大統領選への出馬を否

ビジネス

米産業用機械メーカーが苦境に、関税コストの顧客への

ワールド

韓国大統領、北朝鮮との合意の順次実行を閣僚に指示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中