最新記事

ロシア

対ISISで「不可欠な国」に、プーチン流政治の落とし穴

対テロ戦争で存在感を高めているが、チェチェン紛争などのリスクは抱えたまま

2015年11月27日(金)10時17分

11月24日、プーチン大統領(写真)は、米国がさらなる関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、ロシアを「不可欠な国」にしようとしている。ソチで10月撮影(2015年 ロイター/Alexei Nikolsky/RIA)

 プーチン大統領は、シリアに介入することで、比較的孤立していた状態からロシアを脱却させることに成功。そして米国がさらなる関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、同国を「不可欠な国」にしようとしている。

 しかしこのような地政学的なポーカーゲームで、プーチン氏が勝ったままゲームをやめられるかは分からない。とりわけ、24日に発生したトルコ空軍によるロシア軍機撃墜のような予期せぬ事態が起きた場合はなおさらだ。

 空爆などによるロシアのシリア介入は、アサド政権側を再び優位に立たせ、イスラム国に対する空爆作戦を行う米国主導の有志連合は劣勢を強いられていた。

 しかし130人が犠牲となったパリ同時多発攻撃と乗客乗員224人全員が死亡したロシア旅客機墜落事件を受け、プーチン氏は狙いの的をイスラム国に移し、フランスに協力を申し出た。ロシア国防省は、シリア国内の標的に落とされる、「パリのために」と書かれた爆弾の写真を公開した。

「フランスは戦う意思はあっても能力を出し切れず、米国は能力があるのにやる気に欠けた状態のなか、ロシアにはISに対して大規模な武力行使を行う意思と能力がある」と、パリにある戦略研究財団でシニアリサーチフェローを務めるブルーノ・テルトレ氏は指摘する。

 ウクライナ情勢をめぐる行動で西側諸国からのけ者扱いされていたプーチン氏だが、ハードパワーと外交力を組み合わせた「レアルポリティーク(現実政治)」のおかげで、同氏は今や国際舞台の場で人気者となっている。

 だからと言って、クリミア併合などで受ける西側からの経済制裁をプーチン氏が免れるわけではない。トルコで先週末開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した西側諸国の首脳らは、ロシアに対する経済制裁をさらに半年間延長し、来年7月までとすることで合意した。

 シリアへの介入も成功を収める保証はない。軍事介入は意気揚々と始まっても、失敗に終わることが往々にしてある。英米はそれをイラクとアフガニスタンで学び、旧ソ連も1980年代にアフガニスタンで経験した。

 1990年代後半に当時のオルブライト米国務長官が自国を「不可欠な国」と主張したが、その地位にロシアを押し上げたとプーチン氏は考えている。

 だが、プーチン氏は背伸びし過ぎており、国内の武装勢力や中東産油国からもたらされる安全保障上の、そして経済上の危険を蓄積させていると、一部の専門家は指摘する。

 他の大国との関係に影響しかねないのは、プーチン氏が「背後から刺された」と表現したトルコによるロシア軍機撃墜だけとは限らない。西側諸国の部隊が関与する「誤射」や多数の民間人が犠牲となるような攻撃も、プーチン氏の作戦をコースから外れさせる可能性を秘めている。

優れた戦術家

「地政学的に見て、プーチン氏は優れた戦術家だ。私は嫌いだが、好き嫌いは別にすれば『プーチン流政治』はかなりうまくいっている」と、かつて駐ロシア欧州連合(EU)大使を務めたマイケル・エマーソン氏は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

高島屋、今期の純利益380億円予想 配当は1株6円

ビジネス

午後3時のドルは159円前半へ弱含み、中東情勢の緊

ビジネス

米オープンAI、8520億ドルの企業価値に厳しい視

ビジネス

金融政策巡る赤沢氏発言、片山財務相「手法は日銀に」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中