最新記事

サイエンス

ノーベル賞、中国が(今回は)大喜びの理由

2015年10月16日(金)17時30分
ダンカン・ヒューイット(上海)

 屠が初めて国際的な注目を集めたのは11年、アメリカ版ノーベル賞ともいわれるラスカー賞を受賞したときのこと。それまではほぼ無名の存在だった。

 今回の受賞について屠は、「驚いたけれど、ものすごく意外というわけではなかった」と語っている。また、この賞は「すべての中国人科学者」に与えられたものだと思っていると言う。「何十年も一緒に研究をしてきた仲間だから」

 実のところ、漢方薬に基づき、マラリアの治療薬アーテミシニンを発見する突破口を開いたのは、本当に屠なのかをめぐっては、少しばかり議論がある。74年にこの薬の有効性を最終的に証明したのは、別の中国人研究者だとの指摘もあるのだ。

 だが屠の受賞が、中国人研究者の精神的な励みになったのは確かだろう。「中国人研究者が二流ではないことが証明された」と、復旦大学国際問題研究院の沈丁立(シェン・ティンリー)副院長は胸を張った。

 環球時報は、40年前の研究にノーベル賞が贈られるということは、「他の領域でも(中国人による)ノーベル賞級の功績が既に存在し、世界的な確認や承認を待っている」だけかもしれないと期待を示した。

 これを機に、欧米諸国で中国医学に対する見方が変わり、西洋医学と同じように受け入れられることへも期待が集まっている。屠の同僚によると、アーテミシニン発見につながった研究は、4世紀の中国医学書にヒントを得たものだという。

 イノベーション立国を進める中国政府にとっても、屠のノーベル賞受賞のニュースは絶好のタイミングでもたらされた。政府は、安いモノを大量生産して輸出する経済から、独創的な技術に基づく付加価値の高い経済への移行を図っている。

 屠のノーベル賞は、独創的な研究活動を推進したい政府にとって、何よりの説得材料になりそうだ。屠自身も受賞のニュースを聞いてこう言ったとされる。「新しいものを見つけるためには、私たち科学者に独創性が必要であることの証拠だ」

[2015年10月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、半導体不足でメキシコの車生産停止 米・カナ

ビジネス

イスラエル、ガザ停戦協定の履行再開と表明 空爆で1

ビジネス

米韓が通商合意、トランプ氏言明 3500億ドル投資

ワールド

印パ衝突、250%の関税警告で回避=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中