最新記事

科学

ノーベル賞受賞、中国はどう受け止めているのか

反体制派・劉暁波の平和賞受賞には猛反発したが、科学分野での受賞は誇らしい?

2015年10月6日(火)18時20分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

李克強首相が祝電 ノーベル医学生理学賞の発表記者会見(スクリーンの右がトゥユーユー) Fredrik Sandberg-REUTERS

 中国籍の女性医薬学者・トゥユーユー氏がノーベル賞を受賞した。平和賞受賞の劉暁波が思想犯として投獄されている中、中国政府は今回の受賞をどう受け止めているのか? 庶民の反応も含めてご紹介する。

「西側の価値観に毒されるな!」

 中国のノーベル賞に対するこれまでの基本的な姿勢は「西側の価値観に毒されるな」という「虚勢」に徹底されていた。

 筆者は今世紀に入ってから日中韓の先端技術的学問領域における知的潜在力の比較を行うべく調査を実施したことがある。

 そのころはまだアメリカ国籍を持つアメリカ在住の華人が「リー・ヤン理論」(パリティ 対称性の破れ。1957)でノーベル物理学賞を受賞したくらいで、中国とノーベル賞は無縁のものだった。

 中国で調査をする場合は、まず関係省庁に許可をもらわないといけない。「調査」という言葉を使っただけで「スパイ行為」扱いされるからだ。

 そこで科技部(科学技術に関する中央行政省庁)に当たり、調査の主旨を説明したのだが、そのとき科技部関係者の「ノーベル賞に対する中国の姿勢」が強い印象として残っている。彼はつぎのように述べた。

「ノーベル賞は西側的価値観による判断で出されている。中国には中国独自の社会主義的価値観がある。西側の普遍的価値観により受賞が決まるノーベル賞に対して、中国は関心を持っていない」

 これは中国の虚勢であるとともに、ノーベル賞の中に「平和賞」があることへの警戒であることが直感された。

 案の定、「零八憲章」の起草者として(2008年12月に)当局に身柄を拘束されていた劉暁波が、2010年10月8日に「民主化と人権の促進への貢献」でノーベル平和賞を受賞すると、中国政府は激しく抗議。「ノーベル平和賞は西側の利益の政治的な道具になった。平和賞を利用して中国社会を裂こうとしている」と批判した。

 そしてノーベル平和賞に対抗して孔子平和賞を特設し、台湾の親中派の連戦が第一回受賞者となった(日本の鳩山由紀夫氏も候補者として挙がっている)。

奇妙だった莫言氏のノーベル文学賞受賞

 一方、2012年10月11日、農民作家として知られる莫言がノーベル文学賞を受賞した。莫言氏は中国体制側の要求に沿った執筆活動しかしていない。

 このとき、中国の中央テレビ局CCTVがノーベル賞発表会見場に来ており、誰が招待したのかといぶかる声が上がった。

 というのは2012年4月、当時の温家宝首相がスウェーデンを訪問し、「環境問題の研究のため」として90 億クローナ(約1000億円)を投資すると発表していたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中