最新記事

イギリス

児童1400人性的虐待の衝撃

筆舌に尽くしがたい仕打ちの犯罪を10年前から知りながら放置した警察と行政

2014年9月12日(金)13時08分
リディア・スミス

平和そうな街 家族連れが行き交うロザラム。犯罪とは無縁に思えるが Nigel Roddis/Getty Images

 イギリス中部にあるサウスヨークシャー州のロザラムで、昨年までの16年間に1400人を超える子供が性的虐待を受けていた──そんなおぞましい実態が、先週発覚した。被害者には男児もおり、最年少は11歳の女児。一部の被害は「今日まで続いている」という。

 虐待の事実は、自治体の委託で独立委員会が実施した調査で明らかになった。委員会はロザラム児童局の性的虐待事件などに対する取り組みを調べていた。調査結果をまとめた英ストラスクライド大学のアレクシス・ジェイ客員教授は報告書の中で、立場の一番弱い子供を守らなかったのは警察と行政の怠慢だと指摘。議員や自治体の役人は04年と05年に虐待の通報を受けていたが、地元議会に蔓延する「男性優位かつ性差別的ないじめ体質」が適切な対応を阻んだという。

 さらに加害者の大半がパキスタン系だったため、議会や警察の上層部は人種差別と批判されることを恐れて事件を深く追及しなかったらしい。

 ジェイは「被害者が受けた筆舌に尽くし難い」仕打ちを列挙する。「複数の男たちにレイプされたり、イングランド北部の町に売られたり、誘拐されたり、暴力や脅迫を受けたりした。ある子供はガソリンをかけられて火を付けると脅された。銃を突き付けられた子供や、ほかの子供が手荒くレイプされるさまを見せられ、告げ口をしたらおまえもこうなるぞと脅された子供もいた。大勢の男にレイプされた11歳の少女も複数いた」

 こんな実態には、ロザラムの住人たちも愕然とするしかない。ロザラムはシェフィールド市の中心部から10㌔弱の場所にあり、人口は約25万8000人。11年の国勢調査によれば、民族的少数派が人口に占める割合は8%ほどで、その多くはパキスタン系やカシミール系だ。

 そもそも、ロザラムで児童の性的虐待に関する調査が行われたのは02年以降4回目。最初の調査から事態を放置していたとすれば、もはや怠慢ではなく犯罪に等しい。

[2014年9月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ同盟国がマドゥロ氏支持表明、米の石油タン

ワールド

ノーベル委、平和賞受賞のモハンマディ氏逮捕を非難 

ビジネス

英の暗号資産規制、27年10月から開始 財務省発表

ビジネス

欧州委、内燃エンジン車販売禁止撤回提案へ 独メーカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中