最新記事

弾圧

中国の改革に口出しは無用

習政権は憲法維持と改革を唱える一方で「主張する市民」の弾圧を続けている

2013年8月27日(火)16時11分
ベンジャミン・カールソン

閉鎖的 全人代開催中の3月、天安門広場の前で写真撮影を止める警官 Petar Kujundzic-Reuters

 習近平(シー・チーピン)は中国の国家主席は昨年11月の総書記就任以来、法治国家として憲法を堅持すべきだと口先では強調してきた(そう、中国にも憲法はある)。なのになぜか、主張を同じくする市民の弾圧に乗り出している。

 最近も著名な活動家が犠牲になった。「新公民運動」を始めた法律家の許志永(シュイ・チーヨン)だ。「群衆を集めて公共の秩序を乱した」として、先月半ばに逮捕された。

 4月から自宅軟禁されていた許があらためて逮捕されたことを、活動家たちは「露骨な警告として受け止めた」と、香港中文大学のエバ・ピルス准教授は言う。「彼だけでなく、運動そのものへの周到な対抗措置だ」

 新公民運動はその名のとおり、昨年始まった新しい運動だ。発足時の声明によると「良心と義務、民主主義、法の支配、『近代市民』の概念を共に守ることを決意し、正義と法治を希求する中国市民」の集まりだ。

 活動家や賛同者が緩やかにつながり、現状の法律と政治の枠内で、憲法が保障する権利を実現しようとしてきた。82年公布の現憲法には、言論と集会と出版の自由が盛り込まれている。

 彼らはネット集会を催したり、国内各地の月例食事会で時事問題を話し合ったりする。市民を意味する「公民」と書かれた、青と白のバッジも配っている。
「私たちはみんな公民で、その地位だけは国家も奪えない、という考えをすべての人に伝えようとしている」と、ピルスは言う。「当然ながら、それは政治的に深い意味を持つ」

市民と政府の感覚のずれ

 今月初旬には活動家の尽力で、拘置所にいる許からの動画メッセージが発表された。ひげが伸び、手錠姿の彼が自由と公益のために「どんな犠牲も払う」覚悟を表明し、国民に向かって「氏名の前に『公民』という言葉を付ける」よう呼び掛けた。
 
 2日にはジャーナリストの笑蜀(シャオ・シュー)が許の釈放を要請する公開書簡を発表し、警察に身柄を拘束された。許の収監は「司法制度に対する破壊工作」と主張したためだ。11日には反体制活動家のも、「公共の秩序を乱した」かどで逮捕された。弾圧が「転換点」となり、運動が活発化して団結が強まると論じたからだ。

 今年に入って、少なくとも40人の新公民運動参加者が身柄を拘束されたという。だが皮肉なことに、許は数々の著名な反体制家と異なり、今の政治体制を倒すのでなく、その中で努力しようと訴えてきた。実際、政府高官に資産公開を求める彼の主張などは、習政権の汚職撲滅作戦とまさに合致する。

 ただし中国共産党の指導部は、憲法にしろ市民にしろ、外部への責任を問われることを望まない。習政権は「国民に対して、説明責任を果たす様子が見られない」とジョージ・ワシントン大学法学大学院のドナルド・クラーク教授は述べる。「だからと言って、指導部が真の改革を望まない分野があるとか、できないというわけではない。ただ、対外的な説明責任を伴わない改革になるだろう」
自分たちでできるから、市民は口を出すなということだ。

From GlobalPost.com特約

[2013年8月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、米国との対話に前向きな姿勢表明 信頼

ワールド

フーシ派、紅海船舶攻撃に犯行声明 ホデイダ沖でも2

ビジネス

再送-米、日韓など12カ国に関税巡る書簡送付=ホワ

ビジネス

日本と韓国に25%の関税、トランプ氏表明 8月1日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    新党「アメリカ党」結成を発表したマスクは、トラン…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中