最新記事

中国社会

またも党幹部を直撃したフェラーリ・スキャンダル

指導部交代を前に次々と党幹部の不正が発覚。国民の不満は爆発寸前

2012年10月30日(火)14時52分
メリンダ・リウ(北京支局長)

権力闘争? 最近では温家宝首相の不正蓄財疑惑も飛び出した Jason Lee-Reuters

 3月18日の夜明け前、北京の高速環状道路「四環路」を猛スピードで飛ばしていた黒のフェラーリが派手な事故を起こした。乗っていた若い男性が死亡し、裸同然の若い女性2人が重傷を負った。

 警察はドライバーの素性の公表を拒んだが、やがて運転していたのは胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の側近である令計画(リン・チーホア)の息子、令谷(リン・クー、23)だったと報じられた。このニュースが流れると、当局はミニブログサイトから事故現場の写真を削除。「フェラーリ」「プリンス令」「カーセックス」といったキーワードによるネット検索を遮断した。

 事故から6カ月近くたった今、10年に1度の中国共産党の指導部交代を前に、「フェラーリ事件」が再び注目を集めている。

 今月初め、令計画が中央弁公庁主任(胡の首席補佐官のような役職)という要職から、格下の中央統一戦線工作部長に降格させられたと中国メディアが報じた。令は10月半ばに開幕予定の共産党大会で党中央政治局入りすることを熱望していたとされるが、その可能性はほぼ断たれたといえる。

 この左遷人事をきっかけに、3月のフェラーリ事故に再度関心が集まり、中国のネットユーザーの間で富裕・特権階級への怒りが高まり始めている。

 今年に入って、フェラーリ騒動に巻き込まれた中国高官は令が2人目だ。1人目は、10月の党大会で最高指導部入りが有力視されていながら、春に失脚した前重慶市トップの薄熙来(ボー・シーライ)。失脚前に、息子の薄瓜瓜(ボー・クワクワ)が当時の駐中国米大使ジョン・ハンツマンの娘を赤いフェラーリに乗せて出掛けたことがあると、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた(当時、薄父子はそろって報道を否定)。

 2つのフェラーリ事件は、中国で大きな反響を呼んだ。この国では貧富の格差が拡大するに伴い、党幹部の子供たちが莫大な権力と富を手にしていることへの反発が広がっている。

 フェラーリには、庶民には手が届かない自由と富と地位の象徴というイメージが定着した。何しろ、令谷が運転していた黒の「フェラーリ458スパイダー」の価格は、推定で100万ドル相当とされている。

 もっとも、相次ぐ騒動はフェラーリの売り上げに打撃を与えていない。むしろこの1年間で中国でのフェラーリの売り上げは62%も伸びている。

[2012年9月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本供与のエムポックスワクチン、3分の1が廃棄 コ

ワールド

焦点:米航空会社、感謝祭目前で政府閉鎖の影響に苦慮

ワールド

アングル:ガザ「分断」長期化の恐れ、課題山積で和平

ビジネス

国内外の不確実性、今年のGDPに0.5%影響=仏中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中