最新記事

米外交

ビルマへの禁輸緩和は時期尚早?

アメリカは民主化の見返りに最大級の褒美を用意したが、これでは軍政時代に戻ってしまうと恐れる声も

2012年9月28日(金)15時27分
タリア・ラルフ

仲直り 訪米したテイン・セイン(右)にクリントンは土産をもたせた(写真は昨年のビルマ訪問時) Damir Sagolj-Reuters

 アメリカ政府がビルマ(ミャンマー)に科している厳しい経済制裁を緩和する方針を示した。

 ヒラリー・クリントン国務長官は26日、国連総会出席のためニューヨークを訪れているビルマのテイン・セイン大統領と会談。ビルマ製品の輸入禁止措置を緩和する意向を伝えた。長年の軍政から民政へ移行し、民主化改革を進めるビルマ政府への褒美。アメリカ市場に輸出できるとなれば、最大級のご褒美だ。

「(ビルマの)改革の進展を評価し、同国政府と野党勢力の要求に応じ、アメリカ政府は貿易関係正常化へ向けた次の一歩に踏み出す」と、クリントンは述べた。「まずは、ビルマ製品のアメリカ市場への禁輸措置を緩和する。それにより、ビルマの人々に恩恵がもたらされることを期待する」

 少し前には、ビルマの民主化運動のシンボル、アウン・サン・スー・チーも訪米し、経済制裁の緩和を訴えていた。

「テイン・セイン大統領はアメリカによる経済制裁の撤廃をずっと要請してきた。アウン・サン・スー・チーもさまざまな演説の中で訴えてきた」と、ビルマ大統領府のゾウ・テイ少佐はAP通信に語った。「今回の制裁緩和の動きは非常に前向きなものであり、大統領の訪米の価値ある成果だ」


中国の影響力に対抗するためか

 一方、制裁緩和はアメリカのビルマに対する影響力の喪失につながると、危機感を募らせる活動家たちもいる。ビルマの民主化改革は始まったばかりであり、成し遂げるべきことはまだたくさんあるというのだ。

「まだ軍政時代の悪弊を捨てていない人たちがいる」と、アメリカを拠点にビルマ支援の団体を率いるジェニファー・クイグリーはロサンゼルスタイムズ紙に語った。「それなのに、アメリカはスー・チーとセイン大統領に訪米の土産を与えている。一体いつから制裁の撤廃がプレゼントになったんだ!」

 米政府の動きは、世界経済で存在感を強める中国に対抗した、アジア重視の外交戦略の一部だと見る向きもある。

 クリントンは制裁緩和の時期と内容は示さなかった。禁輸措置はこの8月に米議会で延長が決まったが、バラク・オバマ大統領の判断で撤廃できるという余地も残している。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BRICS首脳会議、ガザ・イランへの攻撃非難 世界

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中