最新記事

エリート教育

中国共産党の俊英はハーバードで育つ

高官の子供から現職官僚まで専制国家の「金の卵」が欧米の一流大学で学ぶ理由

2012年7月6日(金)14時17分
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当)

晴れの日 失脚した薄熙来の息子、瓜瓜は5月末にハーバード大学ケネディ政治学大学院を卒業 Brian Snyder-Reuters

 中国の次期最高指導部入りが確実とみられていた重慶市トップの薄熙来(ボー・シーライ)がこの春に失脚すると、波紋は海を越えて、アメリカ東部のハーバード大学のキャンパスにも及んだ。

 中国共産党のスキャンダルと、アメリカの一流大学の間に何の関係があるのか。薄の息子、簿瓜瓜(ボー・クワクワ)がハーバード大学のケネディ政治学大学院に留学していたのだ。父親の失脚後は授業に出てこなくなり、アパートも引き払ったと報じられたが、5月24日の卒業式には姿を現し、卒業証書を受け取った。

 この一件を機に、アメリカの一流大学で学ぶ中国共産党幹部の子供や孫の存在に注目が集まっている。薄瓜瓜は珍しいケースではない。

 秋に中国の最高指導者に就く見通しの習近平(シー・チンピン)国家副主席の娘は、現在ハーバードの学部生だ。過去に中国共産党トップを務めた趙紫陽(チャオ・ツーヤン)と江沢民(チアン・ツォーミン)にも、ハーバードで学んだ孫がいる。最高指導部の1人である賈慶林(チア・チンリン)の孫娘は、スタンフォード大学に留学中だ。
 
 ワシントン・ポスト紙が最近報じたところによれば、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会のメンバー9人のうち、賈も含めて少なくとも5人に、アメリカ留学中もしくは留学経験のある子供か孫がいるという。

 もっとも、ハーバードをはじめとするアメリカの一流大学で学んでいる中国人の中には、共産党幹部の子供や孫よりはるかに重要な人物もいる。党幹部や官僚自身だ。

 10年余り前、中国共産党は野心的な人材育成プログラムに乗り出し、厳選したエリートを国外の有力大学に派遣して研修を受けさせ始めた。複雑さを増す世界で共産党の専制支配を維持するための訓練を積ませ、必要な技能と専門知識を身に付けさせることが目的だ。

 最初に研修生を送り込んだ先はハーバード大学。その後は、スタンフォード大学やオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、東京大学などにも対象を拡大した。

 既に4000人以上派遣1年ほど前、私はこの研修プログラムを統括する中国発展研究基金会の盧邁(ルー・マイ)事務総長に話を聞いた。「これまでに派遣した研修生は4000人を超す。これほどの規模で海外研修を行っている政府はほかにないだろう」と、盧は胸を張った。

 ハーバードでは、ケネディ政治学大学院アッシュセンターに設けられた8週間の特設プログラムで、リーダーシップや行政学などをケーススタディー方式で学ぶ。ロジャー・ポーターやジョセフ・ナイといったハーバードの看板教授たちの講義も受けられる。

 8週間コース以外に、危機管理を集中的に学ぶコースや、上海市政府用に準備されたコースなどの専門プログラムもある。この夏には、国有送電会社「中国南方電網(CSG)」の幹部向けにエネルギー関連のプログラムも新設される。

 中国のエリートたちにとって研修プログラムへの参加は狭き門だ。共産党の人事を一手に取り仕切る共産党中央組織部の選考を突破しなくてはならない。選ばれる人材は実に多岐にわたる。市政府の官僚もいれば、市長や省長もいるし、中央政府の副大臣もいる。

 盧によれば、ハーバード留学を経験した人物の半分以上は早い時期に昇進する。「研修の成果なのか、優秀な人材を選考して派遣しているからなのかは何とも言えないが、研修の成果だと思いたい」

 ハーバードに派遣されて研修を受けた経験者の中には、中国初の投資銀行である中国国際金融(CICC)の李剣閣(リー・チェンコー)会長、陝西省の趙正永(チャオ・チョンヨン)省長、中央政府の陳徳銘(チェン・トーミン)商務相など、そうそうたる面々が含まれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ、イランの弾道ミサイル迎撃 NATO防空シス

ワールド

対イラン作戦、現時点で地上部隊投入は含まれず=米報

ビジネス

ロシアのタンカー沈没、ウクライナ無人機攻撃か プー

ワールド

イラン外相「攻撃は米国が標的」と説明、カタールは否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 8
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中