最新記事

中東

それでもロシアはシリアの友達

国際社会の包囲網に抵抗するクレムリンの信条と打算とメンツ

2012年7月4日(水)15時25分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

得意先 ホウラの虐殺にはさすがに困惑気味?(ロシアのラブロフ外相) Maxim Shemetov-Reuters

 シリアで反体制派への弾圧が残忍さを増すなか、アサド大統領を支持し続けるロシアに対し国際社会の圧力が強まっている。先週、アサド政権を支持するとみられる武装勢力が、中部のホウラで49人の子供を含む市民108人を虐殺。さすがのロシアもこれには腰が引けたようだ。

 先週、イギリスのヘイグ外相がモスクワを訪れ、対シリアの経済制裁に加わるよう要請した。ロシアのラブロフ外相は会談後に、「重要なのは暴力を終わらせることだ。ロシアはアナン前国連事務総長の調停を支持する」と述べた。

 ラブロフはアサド政権側と反体制派の「双方に」責任があるとして、暴力を厳しく非難する。しかしある英高官は、ロシアは「いかなる国際介入にも断固反対で、その姿勢には目に見える変化はない」と指摘する。

「アサドが政権を維持するほうに賭けることは、長期的な戦略としては非現実的だ──イギリスと国際社会はロシアに対してそう言い続けている。アナンの調停がうまくいかなければ、全面的な内戦に突入する。それが最も現実的だ」

 ロシアは、アサドの父ハフェズが70年に全権を握って以来、一貫してアサド家を支持してきた。彼らは冷戦中の旧ソ連にとって大切な盟友だった。シリアの地中海沿岸のタルトスには、ロシア海軍の国外基地がある。シリア政府はロシアの軍需産業のお得意様で、ミグ戦闘機や対艦ミサイルなど06年以降に約40億ドル分の兵器を購入している。

 ただし、ロシアがシリアの肩を持つのにはほかにも理由がある。ロシアは中東にせよ自分たちの裏庭にせよ、国内の紛争に対する国際的な介入を認めないことを基本原則にしている。

 ロシアは昨年、国際社会の説得に折れて、リビアに対する国連安全保障理事会の限定的な制裁決議を支持した。しかしその直後、制裁決議は全面的なリビア空爆に発展した。


 シリアに関しては、国連安保理の制裁決議でロシアは中国と共に拒否権を2回行使している。「(ロシアは)シリアを第2のリビアにするつもりはない」と、先の英高官は言う。

 アメリカとフランス、イギリスはシリアに対する軍事行動の可能性を強調し始めたが、ロシアはこれまで以上に強く反発している。ガティロフ外務次官は、外部の介入は「状況を悪化させ、シリアにとっても中東にとっても予期せぬ結果を招くだけだ」と語った。メドベージェフ首相は5月のG8で各国首脳に、そのような介入は地域的な核戦争を招きかねないと言った。

 とはいえ、アサド政権が暴力に訴え続ければロシアの立場が危うくなることは、ロシアも十分に認識している。既にアサドには、アナンの調停案を受け入れるように圧力をかけている。

 退陣して暫定政権に譲るならアサドと家族の司法責任は問わないという「イエメン型権力移譲」を、アメリカが模索しているともいわれる。しかしラブロフは、アサドをあくまでも国の代表として扱うべきだと主張する。結局ロシアが、アサドの一番の保護者であり盟友であることに変わりはない。

[2012年6月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

中国の軍事動向に「重大な関心」、東アジア海域に艦船

ビジネス

BofA、顧客の資産運用で暗号資産の配分推奨へ

ワールド

ゼレンスキー氏の飛行経路付近でドローン目撃、アイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中