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中国テレビ司会者「外国人はごみ」発言の真意

公安当局が不法滞在外国人の取り締まりを始めた翌日に、国営テレビ局の有名司会者が外国人に暴言を吐きまくったのは偶然か

2012年5月23日(水)16時24分
ベンジャミン・カールソン

突然の暴走 楊がホストを務める外国人との対話番組『ダイアローグ』は友好の懸け橋だった

 外国人ゲストとの知的な対話を売り物にする格式高いテレビ番組の司会者が、外国人を「ごみ」「スパイ」「メス犬」などと呼んだらどうなるか? 普通なら番組を降ろされると思うだろう。

 だが、楊鋭(ヤン・ロイ)の場合は違った。楊は中国国営テレビ局、中国中央電視台(CCTV)英語チャンネルの人気トーク番組『ダイアローグ』の司会を務め、上品でお堅いイメージのある人物。彼の番組は、中国が自らのソフトパワーを外国にアピールする戦略の一環として位置付けられていた。

 そんな楊が、中国版ツイッター「微博」で外国人への暴言をぶちまけたのは5月16日。北京市公安当局が、100日間にわたる不法滞在・就労外国人の取り締まりキャンペーンを開始した翌日のことだ。彼の発言には、過去に『ダイアローグ』に出演したゲストたちも含めて多くの外国人から強い懸念が示され、同番組への出演拒否を呼びかける声も広がっている。

 楊は微博への投稿で、中国の公安部に「外国のごみを片付け」、「無垢な少女たちを守る」よう求め、市民には「中国女性と同棲する外国のスパイ」を一掃するよう呼び掛けた。さらにとんでもないのは、中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者で、国外追放されたアメリカ人のメリッサ・チャンを「耳障りな外国のメス犬」と呼んだことだ。

 続いて、「中国を妖魔化する連中の口を封じて、追い出すべきだ」と断定。こんな調子のつぶやきを何度も繰り返し、中には外国人に向けて「我々に盾突こうとするな。いつまでもお人よしではいないぞ」という文句もあった。

上司も彼の暴言を容認している?

 北京在住のアメリカ人編集者チャールズ・カスターは、楊の解雇を求める運動を起こした。すると楊は彼を訴えてやると脅した上、カスターは「人種的憎悪をあおっている」と非難。この発言など一部はすでに微博から削除されているが、騒動の発端となった「暴言」はまだ残っている。

 どの国にも過激で、外国人嫌いの評論家はいるものだ。だが、多くの中国専門家が楊の暴言をめぐり何より困惑したのは、それが国営メディアの顔として理性的で国際的なイメージを磨こうとしている男から発せられたこと。しかも彼が何の処罰も受けなかったという事実は、上司たちが彼の見解を黙認したのではないかとの疑念を生んだ。

 「楊はおそらく、今回の暴言は最近の中国の風潮に合うもので、宣伝活動担当の官僚組織にいる上司からも歓迎されると考えたのだろう」と、北京在住で中国情報ブログ「シノシズム」を運営するビル・ビショップは書いている。

 この数週間は中国にいる外国人たちにとって、居心地の悪い時期だった。北京当局の取り締まりが始まっただけでなく、外国人のとんでもない行動をとらえた2つの映像がネットに流れ、市民の怒りを買ったのだ。1つは酔っ払ったイギリス人男性が、中国人女性にわいせつな行為を働いたと思われるもの。もう1つは北京交響楽団のロシア人チェロ奏者が列車内で、中国人女性に罵声を浴びせているものだ。

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