最新記事

米軍撤退

イラクの次の占領者はイランかサウジか

2012年1月20日(金)14時48分
ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)、イーライ・レイク(軍事問題担当)

「スンニ派自治区」を要求

 アメリカとイラク両政府は今年の夏、アンバル州と北部のクルド人地域に残す米軍兵力について長期間の難しい交渉を行った。当初は双方とも、米軍の完全撤退は想定していなかった。

 だがアメリカ側は、米兵の犯罪がイラク国内法で裁かれない免責特権について、イラク側の同意を取り付けることができなかった。米政府にとって、この点はどうしても譲れない条件だったが、マリキをはじめとするイラク人政治家たちは、米兵に対する免責特権を認めることに伴う政治的リスクを嫌ったようだ。

 もちろん米軍の全面撤退後も、アメリカはかなりの外交的存在感を維持する。バグダッドの米大使館に残る人員は1万6000人。その大多数は警備関係の民間人が占める見込みだ。200人前後の軍関係者もイラク軍への軍事訓練のために残る。CIAも米軍から引き継ぎ可能な情報工作や対テロ対策について、水面下で話し合いを行っている。

 だが米軍が撤退すれば、これらのアメリカ人すべてが攻撃の危険にさらされる。強硬派のシーア派指導者ムクタダ・アル・サドルは先月、来年以降もバグダッドの米大使館に残るアメリカ人について声明でこう述べた。「すべて占領者であり、(米軍の)撤退期限後は彼らと戦わなければならない」

 かつてサドルの支配下にある民兵組織マハディ軍が米軍への血なまぐさい攻撃を繰り返したことを考えれば、単なる脅しではない。

 サドルとその支持者は宗派間対立を激化させる恐れもある。サドル派は最近、マリキ政権によるバース党関係者の大量逮捕を称賛した。「あの殺人者たちを見逃すことは、殉教者や遺族をないがしろにする行為だ」と、バグダッドの有力なサドル派聖職者タラル・サアディは言う。

 大量逮捕に猛反発したスンニ派指導者は、独自の自治区創設を要求し始めた。この自治区にはサラハディン、ニナワ、アンバルの3州が含まれる可能性があり、アンバル州には油田とガス田の候補地がある。これに対してマリキを含む政府当局者は、中央政府の弱体化を図る試みだと批判している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中