最新記事

被災者

瓦礫の跡に残る見えない苦悩

危機的状況を脱し、復興が着実に進んでいるように見えるが現実は何一つ変わらず、知られざる「カネ不足」が地元を追い詰めている

2011年12月27日(火)17時43分
山田敏弘、藤田岳人(本誌記者)

出口を探して すべてを失った被災地の経済再生を阻むものは(2011年3月22日、宮城県気仙沼市) Issei Kato-Reuters

 宮城県塩釜市にある佐長商店は、3代にわたって地元名物の笹かまぼこを作ってきた。自社工場での製造だけでなく、隣接する店舗で販売もしていたこの水産加工会社は、小さいながらも大手メーカーとの競争や不況に負けず、堅実に事業を成長させてきた。

 あらゆる企業努力を惜しまず、バス観光のツアーを誘致して製造工程の見学会を開き、ホテルの手配までした。味にも自信があった。大手メーカーと違って販路が限定されているため、「物の良さで勝負してきたし、味を気に入ってリピーターになってくれるお客さんもいた」と、社長は言う。おかげで業績は順調で、来年から息子が4代目として店を継ぐことになっていた。未来は希望に満ちていた。

 だが、3月11日にすべてが変わった。この周辺地域は三陸海岸沿いの被災地とは違って広い地域には被害が出なかったが、防波堤の形状のせいか、佐長商店のある一角だけが津波の通り道となり大きな被害を受けた。

 残されたのは過酷な現実だった。工場の機械は海水にのまれて完全に破壊され、店舗も全壊した。機械を新しく買い替えるだけでも1億円以上が必要になる。それなのに、行政などからの援助は一切受けられなかった。「これだけの費用を支援なしに賄うのは無理。どうすればよいのかまったく分からない」と、社長は途方に暮れる。

 3・11から半年がたち、被災地に関する話題や視点も、緊急時の対応から今後の社会生活や地域経済の復興へと移りつつある。被災者の仮設住宅への入居が急がれ、生活再建のためのさまざまな支援が行われている。

 だが被災地の話題が復興へと移るにつれ、非・被災地では3・11への関心は低下している。多くの人にとって既に震災は対岸の火事でしかない。被災者が仮設住宅に移り始めたことで、「後は自分たちで頑張ればいい」という意識が被災者以外に広がりつつあるようにも見える。

 ただ仮設住宅への入居だけでは復興は進まない。実際に被災者の口から聞こえてくるのは、前向きな言葉ばかりではない。むしろ多くの人は今後の生活の見通しがまったく立たず、元の暮らしを取り戻そうとする気力や意欲を持てなくなっている。

 被災者たちのやる気と希望、そして地域復興への気力をそぐ最大の障壁は何か。それは仮設住宅建設や瓦礫処理の遅れではなく、カネだ。人々の生活や経済の「血液」であるカネが十分に回っていないことだ。

 地方経済を担う中小企業や個人事業者の再建ができず、雇用も回復しない。被災者は安心して暮らすための元手となる収入を確保できないので消費も伸びず、結果的に企業経営がさらに苦しくなる──という悪循環に被災地は陥っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月小売売上高0.6%増、予想上回る エネ高騰が

ワールド

トランプ氏、イランから「かなり早期」に撤退へ NA

ワールド

イラン新指導者が停戦要請、ホルムズ海峡開放されれば

ビジネス

米ADP民間雇用、3月予想上回る6.2万人増 前月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中