最新記事

スキャンダル

「IMFトップを転落させた女」を追え

性的暴行容疑で訴追されたIMFのストロスカーン専務理事に対するアメリカの「野蛮」な扱いに批判が高まるフランスで、被害者の女性の名前や写真が容赦なく公開

2011年5月23日(月)18時08分
デービッド・ケース

グレーな境界線 IMFのストロスカーン専務理事のスキャンダル報道で米仏の文化ギャップが浮き彫りに Gonzalo Fuentes-Reuters

 IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事がマンハッタンのホテルで32歳の女性従業員に性的暴行を加えたとされる事件は、男と女とレイプをめぐるフランスとアメリカの深い亀裂を浮き彫りにしている。

 IMFのトップを務め、2012年のフランス大統領選の最有力候補だったストロスカーンに対するアメリカの扱いは、フランス人の目には「下劣」そのものに映る。

 手錠姿の写真を公開したことや、カメラマンが居並ぶ中でストロスカーンを裁判所まで連行したことは、フランス人に言わせれば「野蛮」極まりない行為。フランスでは、有罪が確定するまで手錠姿の写真を公開しないなど、報道に一定の制限が課せられている。国を代表する著名人がタブロイドメディアの格好の餌食にされたことに、同国のエリート層は激怒している(ニューヨーク・ポスト紙は、ストロスカーンを「卑劣な好色男」と評した)。

名門ルモンド紙まで女性の実名や交友関係を報道

 もっともフランスのメディアも、アメリカのジャーナリズムでは重罪とみなされる行為を平気で行っている。レイプ事件の被害者の実名報道だ。

 週刊誌パリ・マッチは「(被害者の名前)、ストロスカーンを転落させた女」というタイトルで被害者の実名を報じた。記事の冒頭では被害者に同情的な論調で、「内気で思慮深い」ホテル従業員としてプロフィールを紹介。勤務先のホテル「ソフィテル」での人事評価は5段階中の4・5で、ホテル側は「彼女の仕事ぶりや行動には完全に満足していた」と伝えた。さらに、事件について嘘をつくような人物ではないとする、友人の証言も引用している。

 その後、記事は次第に下世話な話題へと移行する。被害者のルックスについては「評価が多岐にわたる」とし、ストロスカーンの弁護団は彼女のことを「あまり魅力的でない」と評したと暴露。さらに「ソニー」という名前のインド系タクシー運転手による下品な噂話レベルの証言に基づいて、被害者のルックスを詳しく描写している。

 フランスを代表する名門ルモンド紙も、被害者の詳しい経歴とともに母国ギニアでの名前とアメリカ名を公開。さらに、彼女がエイズ患者向けアパートに住んでいるというニューヨーク・ポストの報道を引き合いに出しつつ、彼女自身はHIVに感染していないという知人らの証言を引用した。彼女の兄とされている男性は実は恋人だという、女性の友人の証言も紹介している。

フェースブック上の偽写真を掲載

 プライバシーなど気にする様子もないフランスメディアの次なる狙いは被害者の顔写真。各社が競って写真を入手しようと躍起になっているが、先週末時点では成功していない。

 ニュース週刊誌ヌーベル・オプセルバトゥールは、ネット上に出回っている複数の写真を検証する記事を掲載した。同誌によれば、流出した写真の1つは被害者のものとされるフェースブックのプロフィールで使われていたもの。フランスの地方紙が掲載したが、後になって偽のプロフィールだと分かったという。

「複数のソースによって被害者、または彼女の娘と確認された」とされる写真もあるが、映っているのは「まばゆいばかりの若い女性」。この写真はアフリカで広く出回っているという。

 もっと信ぴょう性に欠けるのは、舞踏会でタキシード姿の夫の横に立つ、黒いイブニングドレスの女性の写真。ヌーベル・オプセルバトゥールによれば、これは1975年に撮られた写真で、被害者と同じファーストネームとラストネームを持つセネガル人女性作家だという(ただし、ミドルネームは異なる)。この写真の説明書きは、「(被害女性の実名)、ニューヨークに到着」とされていた。

 一方のアメリカでは、レイプ事件の被害者の実名は報じないというメディアの伝統と、フランス語の壁が相まって、今のところ女性の匿名性はほぼ守られているようだ。ただし、彼女の住むアパートや、彼女の兄(または恋人)が働くカフェにはカメラマンが殺到している。
   
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市氏が総裁選公約、対日投資を厳格化 外国人への対

ワールド

カナダとメキシコ、貿易協定強化で結束強化の考え

ワールド

米、ワシントンの犯罪取り締まりで逮捕者らの給付金不

ワールド

フィンランド、米国との二国間の軍事協力は深化=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中