最新記事

フランス

ブルカ禁止でテロの脅威に怯えるパリ

イスラム過激派組織による相次ぐフランス人誘拐に加え、国内がテロ攻撃の標的になる危険が高まっている

2010年9月22日(水)17時06分
ラビ・ソマイヤ

厳戒態勢 エッフェル塔の下をパトロールする警官と兵士(9月16日、パリ) Charles Platiau-Reuters

 今年7月、ニジェールで誘拐された78歳のフランス人男性が殺害され、即座に過激派テロ組織との戦争を宣言したフランスだが、ここにきて国内でのテロの脅威が深刻化している。

 敵は、北アフリカに拠点を置くアルカイダ系の過激派組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」。7月以降もフランス人の誘拐は続いており、ブルカ(イスラム教の女性が顔や全身を覆うベール)禁止をめぐって既に緊張が高まっていたパリでは、警戒レベルが引き上げられた。

 AQIMは94年のエールフランス機乗っ取り事件など、フランスを標的にした攻撃で知られたアルジェリア系の武装イスラム集団(GIA)から発展した組織。アルカイダ系の組織に「進化」した今も、フランスを狙う傾向は変わらないようだ。

 7月の人質殺害事件に続き、9月16日にはニジェール北部でフランスの民間人5人が誘拐された。AP通信の報道によると、およそ80人のフランス軍兵士が捜索のためニジェールに送られ、「フランス海軍の赤外線探知機搭載の長距離航空機も投入された」という。

 一方、フランス国内では国会でのブルカ禁止法案の採択をめぐり緊張が高まった。7月に下院を通過したこの法案は、9月14日に上院でも可決された。イスラム女性には6カ月間の猶予期間が与えられるが、その後はブルカを着用すると罰金や禁固刑が科される。

エッフェル塔でも爆弾騒ぎ

 法案可決を受けて、フランスの諜報機関である中央対内情報局のベルナール・スクアルシニ局長は、テロ攻撃の「赤信号が点滅している」と警告。「アフガニスタンでのフランスの役割、外交政策、ブルカ禁止法案をめぐる議論――すべてがリスクを高める要因だ」と語った。

 諜報機関の活動によって、年平均で2回程度の大規模な攻撃を未然に防いでいるが、「いつかは実害をこうむるだろう」とスクアルシニは警告している。

 9月14日には、エッフェル塔に爆弾を仕掛けたという匿名電話があり、一帯が封鎖される騒ぎになったが、後に虚偽の情報だったことが判明。この一件を受け、ブリス・オルトフー仏内相も警戒の声をあげた。「ここ数日、あるいはここ数時間で次々と発生した出来事は、テロの脅威が非常に大きいことを示している」と、記者会見で語った。

 それから1週間も経たないうちに、オルトフーが旅行の予定をキャンセルしたことが報じられた。アルジェリア出身の女性が、パリの公共交通機関を標的にした自爆テロを計画しているとの警告があったからだという。フランスの地下鉄が最後にテロ攻撃にあったのは95年で、他ならないAQIMの前身組織だったGIAによる犯行だった。この事件で80人が死亡した。

 イギリスのデイリー・メール紙の報道によれば、警察部隊は主要な道路や駅、空港などでの職務質問を強化しているという。ベテラン政治家に加え、「穏健派イスラム指導者」と呼ばれるダリル・ブバクルには銃を携帯した護衛がつけられている。

 AQIMによる具体的なテロ予告はまだない。しかし彼らは、ある過激派のウェブサイトに次のようなメッセージを記している。「わが娘たち、わが姉妹たちの尊厳のため、われわれはあらゆる手段を駆使してすさまじい復讐をフランスに仕掛ける」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は4日ぶり反落、米株安を嫌気 TOPIXは

ビジネス

焦点:チャットGPTに運用頼る投資家、加速する「ロ

ビジネス

米ストーンピーク新アジアインフラファンド、目標40

ワールド

スペインも軍艦船派遣、ガザ支援船団へのドローン攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 7
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 8
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 9
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中