最新記事

テロリスト

モスク建設反対にほくそ笑むタリバン

ニューヨークの「グラウンド・ゼロ」モスク建設計画にアメリカ国民が反対すればするほど、イスラム主義のテロリストが増加する

2010年8月31日(火)15時15分
サミ・ユサフザイ

宣伝材料? テロ跡地近くのモスク建設計画でアメリカ人の賛否は割れる(8月25日) Lucas Jackson-Reuters

 アフガニスタンのイスラム武装勢力タリバンにしてみれば、モスク(イスラム礼拝所)が建設されないことを願うのは神に対する冒涜行為に他ならない。だが、彼らはまさにそれを望んでいる。

 そのモスクとは、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地(グラウンド・ゼロ)近くに建設が計画されている礼拝堂。タリバンは、建設計画に反対するアメリカ市民による熾烈な運動が成功することを願っているのだ。

 「モスク建設への反対運動で、アメリカはわれわれに大きな利益をもたらしてくれている」と、タリバン工作員のザビフッラーは言う。「新メンバーの加入や寄付金、そして我々に対する支持が増えている」

 ジハード(聖戦)を訴えるサイトには、アメリカでのモスク反対運動についてメールが殺到しており、その数は今年初めにフランスがブルカ着用禁止を決定した際をはるかに上回っていると、ザビフッラーは言う。(フランスのブルカ禁止令の際も多数のメールが寄せられ、『イスラム教徒はどう反応すべきで、フランスをどう懲らしめるかと質問するメールがたくさん届いた』と彼は言う)。

 そして今、怒りの矛先が再びアメリカに向けられている。「今回のモスク問題への支持と連携、そしてこの屈辱にどう反撃するかを問い合わせるメールが多く寄せられている」

欧米のテロリスト求む

 アメリカのモスク問題はいまや、タリバンが新たな戦闘員を勧誘する上で一番の説得材料になっていると、ザビフッラー言う。「これまでは、アメリカ政府のイスラム系テロ容疑者に対する拷問手法やグアンタナモ米軍基地でイスラム教徒が収監されていること、そして駐留米軍による空爆で罪のない女性や子供が殺害されていることを説得材料にしてきた。そして今、アメリカはニューヨークのモスク建設計画に対する反対運動という新たな題材をくれた」

 タリバン関係者は、今年初めにニューヨークのタイムズスクエアで起きた車爆破未遂事件犯のように、欧米から「見習い」テロリストの新規加入を望んでいる。「(車爆破未遂事件犯の)ファイサル・シャーザッドのように、怒りを表したいアメリカ人イスラム教徒が現れるのを期待している」と、あるタリバン幹部は言う。
 
 先週カナダのオンタリオで簡易爆発物を爆発させようとして逮捕されたカナダ人イスラム教徒のように、欧米のイスラム教徒の中に怒りを行動に移す傾向が高まっていると、この幹部は指摘する(この事件に絡んで、8月27日に4人目の逮捕者が出た)。

 グラウンド・ゼロ・モスクにからむ騒動は、この怒りを増幅させそうだ。「モスクの建設を止めれば止めるほど、ジハード戦士の数も増える」と、ザビフッラーは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中