最新記事

中東

カイロで演説するオバマのリスク

イスラム社会の期待が高まり過ぎると悲惨な結果に終わりかねない

2009年6月4日(木)16時14分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

懸け橋 「イスラムと現代性の融和」を目指すオバマだが Dadang Tri-Reuters

 08年3月、バラク・オバマはフィラデルフィアで演説し、自らの出自を語って人種間の融和を訴えた。アメリカの悲しい歴史と痛みと軋轢を巧みに織り交ぜたこの演説で、オバマは大統領選予備選の流れを変えた。

 そして今、彼の自伝的な演説手法が試される究極の機会がやって来た。オバマは6月4日、イスラム文化の拠点、エジプトのカイロ大学で演説する。フィラデルフィア演説が再現されるかもしれない。

 ハードルは低い。ブッシュ前大統領のように靴を投げつけられることなく、拍手を浴びれば成功といえる。だがオバマは友人たちにもっと高い目標を語っている。「イスラムと現代性の融和」を手助けしたいというのだ。

 オバマはケニア出身のイスラム教徒を父に持ち、インドネシアでイスラム系公立学校に通っていた。このため自分がイスラム社会と欧米の懸け橋になれるし、それが義務だとも感じている。

 その志には敬意を表したい。だがカイロはフィラデルフィアではない。イスラム世界はアメリカとは違う。アメリカ国民は彼の言葉を受け入れる準備ができていた。エジプトでは言葉は重い意味を持ち、異教徒からなだめの言葉を聞かされれば警戒する。期待が高まり過ぎると悲惨な結果になり得る。

 今回なぜカイロが選ばれたのか。1つはアメリカは原理主義者との思想的な対峙を避けないという決意を示すため。もう1つは、イスラエルを承認していてパレスチナ和平プロセス再開の後ろ盾になり得る同盟国を支えるためだ。

 外交専門家はオバマのカイロ訪問に賛同する。「ブッシュ前大統領は共通の価値観について語るのが好きだったが、説教じみていた」と、ブルッキングズ研究所のタマラ・ウィッテスは言う。「オバマは平等なパートナーシップを打ち出すことで、流れを変えられる」

 だがリスクもある。最も危険なのは、オバマが自分自身の言葉にとらわれてしまうこと、そして言葉が多大な期待を生んでしまうことだ。人権擁護団体はオバマがイスラム社会の政治的抑圧に言及することを期待する。パレスチナ人は、少なくともガザ地区の悲しみに触れてほしいと望んでいる。

 フィラデルフィアでは、オバマの演説は歴史を変えたかもしれない。カイロでは、彼の演説は物語の序章にすぎない。

[2009年6月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中