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それでも私がトランプから勲章を受け取った理由

Why I Accepted the Medal

2021年3月8日(月)11時30分
ニック・ウット(元AP通信カメラマン)

授与式の前に挨拶したら、大統領は上機嫌だった。「ナパーム弾の少女」の写真の話をし、会えてうれしいと言った。私とファン・ティ・キム・フク(写真の少女)がサインした写真を渡すと、大統領は大喜びした。彼が勲章を私の首に掛けた瞬間は、私の人生で最も幸せな瞬間だった。

そのときは1度目の弾劾訴追が決まったとは知らず、「幸運を」とだけ言った。私は友人たちから、危険だからワシントンに来るなと警告されていた。勲章を受け取ったことでいろいろ言われるだろうが、構うものか。私個人への勲章なのだから。

実はトランプが大統領になる前にロサンゼルスで会ったことがある。彼は私が撮影したベトナムの写真をとても気に入っていて、「ニック、君の写真は世界を変えた」と言った。「ナパーム弾の少女」のことだ。あの写真はベトナム戦争中、AP通信の仕事をしているときにタイニン省チャンバンの村で撮影した。

1972年6月8日の午前8時頃、チャンバンの村に着いた。何時間か撮影してサイゴン(現ホーチミン)に戻ろうとしたとき、軍用機がナパーム弾を投下するのが見えた。爆弾が爆発するのを、あんなに近くで見たのは初めてだった。

村には誰も残っていないと思っていたが、村人たちが国道を走っているのが見えた。撮影を始めて数分後、両腕を広げて走ってくる少女が見えた。ひどいやけどを負って瀕死の状態だった。すぐ水を掛け、40分近く車を走らせて地元の病院に運んだが、受け入れを拒まれた。記者証を見せて「彼女が死んだら、彼女の写真が世界中の新聞のトップを飾るぞ」とすごむと、病院側はすぐに彼女を受け入れた。

アメリカは自由の象徴だ

サイゴン支局に戻り、撮影したキムの写真を同僚たちに見せた。意見は割れた。9歳の少女の裸の写真だぞ、という声も上がった。昼食から戻ったホルスト・ファース支局長は写真を見て、なぜすぐにニューヨークに送らなかったのかと言った。写真はニューヨークに送られ、世界中に配信された。

私が助けていなかったら、キムは死んでいただろう。そして私は一生自分を許せなかっただろう。

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