最新記事

日米関係

安倍が米議会で語るべき未来

アメリカは「歴史的責任」に対する謝罪より日米関係の強化を期待している

2015年4月8日(水)15時56分
シャノン・ティエジー

アジアも注視 アメリカか近隣諸国か。米議会演説で語るべき内容は相手によって違う Brendan Hoffman/Getty Images

 4月下旬に安倍晋三首相は、日本の首相として初めて米上下両院合同会議で演説する。米議会での演説は61年に池田勇人首相が下院で行って以来で、安倍の祖父、岸信介も首相在任中の57年に下院で演説している。

 演説は、将来に向けて安全保障と経済における日米関係を強調するものになるだろう。特にTPP(環太平洋経済連携協定)の締結に向けた決意を示すことが期待されている。

 一方で、今夏に戦後70年を迎えるとあって、過去の歴史にどのように言及するかをめぐる議論も高まっている。

 フィリピンで旧日本軍の捕虜となった元米兵や遺族を中心とする「全米バターン・コレヒドール防衛兵の会」のジャン・トンプソン会長は、上下院の退役軍人委員会に書簡を送り安倍が演説で日本の戦時中の「歴史的責任」を軽視するかもしれないと懸念を示した。

 トンプソンはさらに、安倍が「過去の演説で、51年のサンフランシスコ平和条約の礎となった東京裁判の判決を否定するような発言をしたこと」を憂慮しているとも述べた。

 演説には日米以外の政府も関心を寄せている。韓国の外務省は、安倍が米議会の演説で「過去に対する真摯な悔恨の念」を示すことを求めると語った。

 昨年7月にオーストラリアの連邦議会で演説した安倍は、冒頭で第二次大戦の惨禍を繰り返させないと述べた。しかし、中国と韓国が期待する具体的な言葉──日本の侵略に対する謝罪──はなく、消極的な表現と受け止められた。

 とはいえ、今回の演説で歴史問題を掘り下げることはないだろう。米議会にとっては過去より現在のほうが、先の戦争をめぐる言葉遣いより日米関係を強化して中国を牽制することのほうが、はるかに重要なのだ。

 3月中旬に米上院の軍事委員会と外交委員会の重鎮が連名で国防長官と国務長官に書簡を送り、東シナ海と南シナ海において「中国の脅威に対処する正式な政策と明瞭な戦略」を強く求めている。

 安倍は演説で国際社会に向けて語り掛けるのか、それともアメリカに向けてなのか。演説の中身は、聴衆によって決まる。

From thediplomat.com

[2015年4月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初

ワールド

韓国電池材料L&F、テスラとの契約額大幅引き下げ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中