最新記事

プライバシー

大学は学生を監視してもOK?

学生証がICカードになり、いつどこの施設を利用したかもすべて把握されている

2014年11月13日(木)16時00分
ジュリア・グラム

無断撮影 ハーバード大学は出席率を調べるためだったと説明する Michael Fein-Bloomberg/Getty Images

 ハーバード大学が今春、出席率を調べる目的で10教室・延べ2000人の学生を無断で撮影していたことが分かった。事実が明るみに出たのは半年もたった先日のことで、教員会議では非難の大合唱が起きたという。政府による盗聴や監視など、組織的なプライバシー侵害は世界中で大きな問題となっているが、ついに大学にも飛び火した。

 学生の成績に関しては、本人の同意なくして第三者に知らせることは法律で禁じられている。しかし学校側が収集している学生情報は膨大だ。多くの大学が導入しているネット経由の学習管理システムは、個々の学生がどれだけの時間、どのテキストを見ていたかを記録している。学生証が非接触型ICカードになっていれば、学生がいつ、どこの施設を利用したかが記録される。現にマサチューセッツ大学ダートマス校は、ボストンマラソン爆弾テロ事件の犯人の1人が事件後に学内のジムを利用していた事実を学生証の記録から突き止めた。

 こんな状況が続けば、学生たちが「大学は私に無断で、あるいは私の知らぬ間に、何をどこまで監視しているのか」と疑心暗鬼になるだけだと、フロリダ国際大学のジョイ・ブランチャード助教(高等教育学)は指摘する。

 しかし、そもそも大学構内にいる学生にプライバシーの権利はあるのだろうか。もちろん学生寮でのプライバシーは保護されている。しかし授業中の学生にプライバシーはないとする考え方も根強い。

 ハーバード大学副学長のピーター・K・ボールによれば、出席率を調べるために授業中の教室を撮影するプロジェクトは、学内の審査機関の承認を得ていた。ただし撮影対象となる教員にも学生にも、事前通知はしなかった。事前に知らせたら出席率が不自然に上がる恐れがある、と判断したからだ。

 しかし、こうした説明に教職員は納得しなかったようだ。コンピューター科学が専門のハリー・ルイス教授は、「技術的に可能だからといって、何でもやっていいものではない。どうしても事前通告なしでやる必要があったとしても、人々を電子的に観察するなら事後には通知すべきだ」と批判する。
 
 前出のブランチャードも「違法とは思わないが」としつつ、こう付け加えた。「倫理に反しているのは間違いない」

[2014年11月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱自社長、ネクスペリア問題の影響「11月半ば過ぎ

ワールド

EUが排出量削減目標で合意、COP30で提示 クレ

ビジネス

三村財務官、AI主導の株高に懸念表明

ビジネス

仏サービスPMI、10月は48.0 14カ月連続の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中