最新記事

景気対策

全米を結ぶ虚妄の超特急

オバマ大統領が推進する高速鉄道網構想は環境にもアメリカ経済にも優しくない

2011年1月26日(水)15時01分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

役立たず 費用は莫大だが効果はゼロに等しい Michael Dunning/Getty Images

 気が付けばアメリカでは、大都市を結ぶ高速鉄道が「地球を救う」と言われている。いま全米規模で計画中の高速鉄道網が完成すれば、温室効果ガスも石油消費量も削減できるから、環境に優しいのだという。

 そんな話はまやかしでしかない。高速鉄道網は、社会的正義の仮面をかぶった無駄遣いの最たる例だ。膨大な債務に苦しむ自治体をさらに苦しめ、教育や安全保障など価値のあることに振り向けるべき予算を奪い取る。

 連邦政府は105億ドルの支出を約束しているが、これだけで済むわけがない。カリフォルニア州はアナハイムとサンフランシスコなどを結ぶ約1300キロの路線に約190億ドルの予算を求めている。全米で計画される13路線の建設には軽く2000億ドルが必要になり、大半(あるいはすべて)を政府が負担する。

 この膨大な投資から得られるものはほとんどない。道路渋滞が大幅に緩和されるわけでもなく、温室効果ガスが減るわけでもない。飛行機の利用者や石油の消費量が大きく減ることもない。期待される効果はゼロに近いのだ。その理由は小学校の算数が理解できれば分かる。

 高速鉄道が飛行機や自動車と最も競合するのは、移動距離が800キロ以内の場合だ。だが800キロまでの全米の航空路線のうち、1日の利用者が最も多い12路線を合わせても、利用者の合計は5万2934人だ。全米の航空機利用者は1日約200万人だから、その3%も減らないことになる。燃料使用量はもっと減らない。鉄道も燃料を使うからだ。

目に見える効果はゼロ

 高速鉄道網を利用するのは旅行者のほんの一部だから、効果は非常に限られる。アメリカでは毎日、約1億4000万人が通勤していて、うち85%が自動車を使っている(平均所要時間は25分)。仮に高速鉄道の利用者が25万人に達しても、個人の自動車利用や通勤のパターンに目に見える影響は表れない。

 ここには、アメリカ特有の経済的・地理的要因が絡んでいる。第二次大戦後に郊外が拡大したことで、アメリカの鉄道はほとんど「使えない」ものになってしまった。都市の中心部に住む人は1950年には全人口の56%だったが、2000年には32%にまで減った。

 仕事場も都市の中心部だけではなくなった。アメリカでは多くの人口が決まった鉄道ルートを利用することがない。高速鉄道網が力を発揮するのは、ヨーロッパやアジアのように人口密度が高い地域だけだ。

 バラク・オバマ大統領は高速鉄道を重要な「インフラ」と呼ぶが、実際は利益誘導型事業の典型だ。それでも体裁を取り繕えるのはなぜか。

 答えは「意図的な無知」にあるだろう。人々は不快な現実より、心地よい嘘を好む。実現するはずもない公共の利益を想像し、現実の費用を無視する。

 カリフォルニア州の例を見てみよう。州の財政は危機に瀕し、公務員の一時解雇も行った。それでも州は、高速鉄道を建設したがっている。

無能をさらけ出すだけ

 ところが、誰も建設費用を把握していない。カリフォルニア州高速鉄道局(CHSRA)は08年には336億ドルとみていたが、翌年には426億ドルに修正した。政府には費用の約半分の負担を求めているが、それが実現しても州の負担が大きいことに変わりはない。

 CHSRAは、鉄道が完成すれば2030年には年30億ドルの営業利益が出るという。これが本当なら民間から投資があってもよさそうだが、その例はまだない。

 この鉄道計画によって、州は一層の負債を背負う。いったい何のために? CHSRAの予測によれば、高速鉄道は30年になっても州内の移動の4%に貢献するだけなのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

与党「地滑り的勝利」で高市トレード再開へ、日経6万

ワールド

高市首相、消費減税「やった方がいいと確信」 改憲は

ワールド

自民単独300議席超、「絶対安定多数」上回る 維新

ビジネス

自民大勝でも「放漫財政にならない」=片山財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 7
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中