最新記事

テロ

アルカイダの新たな標的は欧州じゃない

国際テロの主戦場はヨーロッパに移った……というのはとんだ誤解。テロリスト集団がアメリカ本土再攻撃を企てている証拠は至る所にある

2010年10月18日(月)18時19分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

明白な脅威 5月にニューヨークで自動車爆弾テロ未遂事件を起こして有罪判決を受けたシャザド Courtesy of Orkut.com-Reuters

 どうしてヨーロッパなのか。最近、アメリカ政府が発表するテロ警報や注意喚起は、ことごとくヨーロッパを舞台にしたテロを想定している。10月に入ってからも、国務省がヨーロッパへの渡航者に注意を呼び掛けたばかりだ。

 なぜ、アメリカではないのだろう? 先日、アメリカのテロ対策のベテランである古い友人と食事をした際に、疑問をぶつけてみた。

「政府が何かを見落としているんだ」と、友人はコーヒーを待つ間に言った。「政府には見えていないことがある」。名前や肩書き、地名を記事に記すことはいつものように拒まれたが、この友人は90年代前半から国際テロ組織アルカイダの動向に目を光らせてきた人物だ。その経験上、目下の危険は見過ごせないと言う。

「9・11直前に----」と言ってから、友人は声を落とした。「『連中の動きが活発になっている』とか『何かが起きそうだ』という指摘はあったが、事件が起きる場所は向こう(ヨーロッパ)だと考えられていた。しかしその後......」。続きは言葉にするまでもなかった。

「今度はヨーロッパが狙われる可能性もあるが、ウサマ・ビンラディンはヨーロッパに対してはアメリカほど関心がないかもしれない」と、友人は言った。「ビンラディンの究極の目標は、ここ(アメリカ)でまたテロを行うことだ」

「対イスラム戦争」への反発

 アメリカ本土で新たなテロが起きる可能性を示唆する材料は、至る所にある。ニュースや裁判資料、イスラム過激派グループのウェブサイトを見れば、見落としようがない。

 オバマ政権が国内テロに注意を呼び掛けないのは、国民の不安をかき立てたくないからなのかもしれない。あるいは、中間選挙前に安全保障上の脅威を強調することで、選挙戦を有利に運ぼうとしていると批判されたくないからなのかもしれない。

 それならまだいい。オバマ政権が9・11以前の歴代政権と同様の「近視眼」に陥っているとすれば、状況はもっと深刻だ。巨額の予算をつぎ込んで情報機関に集めさせた情報にしか目を向けないようでは、物事を見誤る。そうした情報からは見えてこない事実があるのだ。

 実は、アメリカなどによる「対イスラム戦争」に対抗するという考え方のもと、アルカイダと緩やかに結びついている世界のイスラム過激派勢力が1つに結集し始めている。具体的な活動目標は地域ごとに異なっても、アメリカと戦わなければその戦いに勝てないという認識は共有されている。

 アルカイダはかねてより、キリスト教徒による反イスラムの「十字軍」に抵抗すべしという主張を勢力拡大に利用してきた。アフガニスタンとイラクの戦争、さらにはニューヨークの9・11テロ跡地近くのモスク(イスラム礼拝堂)建設計画をめぐる論争などをきっかけに、世界の多くのイスラム教徒は「対イスラム戦争」うんぬんという主張にますます説得力を感じるようになった。

 欧米のメディアは大きく取り上げていないが、最近アルカイダ支持層の間で注目されているのは、アーフィア・シディキというパキスタン女性のケースだ。アメリカで神経科学を学んだ研究者であるシディキは、9・11テロの首謀者ハリド・シェイク・モハメドと親しい関係にあったとされており、モハメドの甥と結婚している。

 9・11テロ後、シディキはテロ容疑者として追われ、08年にアフガニスタンで逮捕された。そしてこの9月、尋問官を殺害しようとしたとしてアメリカの裁判所で86年の刑を言い渡された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-〔アングル〕イラン戦争でインフレ再燃、トラン

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦維持期待で安全資産

ワールド

イラン交渉団がパキスタン到着、レバノン停戦要求 米

ビジネス

米国株式市場=まちまち、中東交渉控え様子見 ハイテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    アメリカは同盟国の「潜在的な敵」となった...イラン…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中