最新記事

アメリカ社会

銃所持を支持する新リベラル派

憲法は中絶する権利と同様に武装権も認めているとする新たな法解釈が登場

2010年6月29日(火)14時38分
ベン・アドラー(ジャーナリスト)

──規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。(合衆国憲法修正第2条)

 憲法説明責任センター(CAC)は、「合衆国憲法の本文と歴史に示された進歩的な約束の実現」を目的とする団体。08年の設立当初は、よくあるリベラル派の法的権利擁護グループに見えた。

 実際、CACはリベラル派の運動一般を幅広く支援してきた。カリフォルニア州の温室効果ガス排出規制の取り組みや、「移民の刑事被告人のための正当な法的保護」には特に力を入れている。

 そのCACがシカゴ市当局による銃規制の是非を争う「マクドナルド対シカゴ市裁判」について、3月2日の口頭弁論を前に意見書を連邦最高裁判所に提出した。そう聞けば、普通は被告のシカゴ市に味方する意見書だと思う。

 残念ながら答えはノーだ。リベラル派は長年、憲法修正第2条にある武器保有の権利は州兵の設立のみを意味しているとの立場から、銃所持の権利に反対してきた。

 だが今ではリベラル派の一部から、この法解釈は狭過ぎるという異論が上がっている。従来の見方は憲法制定後の歴史的経緯を考慮していないだけでなく、個人の権利保護に関するリベラル派の憲法解釈とも矛盾するというのだ。

「身体の自己決定権」と同じ暗黙の権利

 CACは保守系の法曹団体フェデラリスト協会の共同創設者スティーブン・G・カラブリーシを含むかたくなな保守派と手を組み、州レベルでの個人の権利拡大を目指している。ここで言う個人の権利には、銃所持の権利も含まれる。「個人の武装する権利の一部には、極めて進歩的な歴史的根拠がある」と、CACの創設者ダグラス・ケンドールは言う。

 通常のリベラル派とは懸け離れた立場だ。それでもリベラル派の法律専門家の一部には、銃所持の権利を擁護するケンドールの運動に協力する人々もいる。

「個人の武装の権利は現行の憲法と矛盾しないと考える」と語るカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアダム・ウィンクラー教授(憲法学)もその1人だ。CACの意見書には、ウィンクラーのようなリベラル派の大物を含む8人の法学者が署名している。

 ケンドールと支持者によれば、武装の権利はアメリカの歴史の大半を通じ、市民権の欠かせない一部と見なされてきた。「42の州が武装の権利を州憲法で保護している。アメリカの歴史上、最も長期にわたり最も深く根付いてきた権利の1つだ」と、ウィンクラーは指摘する。

 彼らの主張の中心にあるのは、法解釈の整合性を追求する姿勢だ。リベラル派は長年、合衆国憲法は(明確な文言はないものの)「身体の自己決定権」を認めていると主張してきた。この権利が人工妊娠中絶や同性愛者の権利擁護の法的根拠になっている。

 銃所持の権利を擁護する一部のリベラル派は、武器の保有についても同様に暗黙の権利が付与されていると考える。武装の権利とは、自分の身を犯罪者と政府の両方から守れるようにする権利にほかならないと、彼らは主張する。

 マクドナルド裁判におけるCACの主要な関心事は、銃所持の権利を守ることではなく、権利章典(憲法修正第1条〜10条)に定められた個人の保護を州レベルに適用する前例を作ることだ。それによってリベラル派は、正当な法手続きと中絶する権利をより強力に擁護する憲法論議が可能になると期待しているのだ。

新解釈を批判する保守派も

 マクドナルド裁判の真の争点は、憲法修正第2条が州政府にも適用されるかどうかだ(現在は連邦政府のみに適用)。連邦最高裁は既に、言論の自由などの「基本的権利」については州にも適用している。全米ライフル協会(NRA)は、憲法修正第2条も基本的権利に加えるよう最高裁に求めている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

グローバルな経済環境、今後も厳しい状況続く=英中銀

ワールド

モスクワ軍事パレード、戦闘用ドローン公開 ウクライ

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ビジネス

三井住友銀行、印イエス銀の株式取得へ協議=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中