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それでも医療保険改革は大丈夫!

マサチューセッツ州の選挙結果だけで全米の運命を決められてはたまらない。勝算もある

2010年1月21日(木)17時25分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

万事休す? マサチューセッツ州の補選で共和党のブラウンが勝利。民主党は上院の安定多数を失った(1月19日) Brian Snyder-Reuters

 1月19日、マサチューセッツ州の連邦上院補選で、共和党のスコット・ブラウン州議会上院議員が民主党のマーサ・コークリー同州司法長官を破った。昨年8月に死去した重鎮エドワード・ケネディーが長年守ってきた議席を失った民主党にとっては、歴史的な惨敗だ。これによって民主党は上院で、共和党の議事妨害を阻止できる安定多数(定員100の5分の3に当たる60議席)を割り込むことになった。

 ブラウンは巧みな選挙戦略で、コークリーを失敗と傲慢と愚かさの象徴に仕立て上げ、民主党に対する有権者の怒りを引き出した。公職に立候補した者が投票日の3週間前にバケーションに出かけたり、地元の大リーグチームのファンを軽視する態度を取るような事態は、今後しばらくは起きないだろう。

 今回の敗北はバラク・オバマ大統領への警鐘か。その通りだ。オバマは国民の声に耳を傾ける姿勢をもっと打ち出すべきか。その通りだ。

 では、民主党が上院で安定多数を失ったことで、医療保険制度改革は失敗するのか。

 冗談じゃない。マサチューセッツ州の選挙結果だけで、アメリカ全体に関わる大問題の方向性を決めていいはずがない。

 今回の敗北によってオバマ政権の医療保険政策が頓挫すると予測するのは、2006年の中間選挙で民主党が圧勝して議会の過半数を制した際に、これでブッシュ政権のイラク戦争は頓挫すると言うのに等しい。当時、リベラル派はそう主張したが、共和党は信じなかった。

 実際、正反対のことが起きた。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、民主党と世論の反対を押し切る形でイラクへの増派を進めた。医療制度改革でも、同じような展開が考えられる。

マサチューセッツは皆保険の特殊事情

 オバマの一般教書演説を1月27日に控え、この1週間は民主党にとっては厳しい時期だ。しかし、民主党がより強力で実行力のある党に変貌できるかどうかを計る重要な試金石となる期間でもある。

 マサチューセッツ州の結果を左右したのは、候補者の個人的資質と有権者の怒りだけではない。医療制度改革が一定の役割を果たしたという面も、確かにある。

 それは、この選挙が多くの意味で「特別」だったからだ。マサチューセッツ州はアメリカで唯一、皆保険制度を備えている。

 医療保険の対象者を拡大するのが難しい大きな要因は、すでに保険に加入している人が加入していない人のことを気にかけないから。その点、マサチューセッツ州の住民の保険加入率は95%以上。彼らはすでに保険に入っており、議会が法案を可決することで無保険状態から抜け出せる見知らぬ3000万人の事情などどうでもいいのだ。

 議員の名誉のために言っておくと、ワシントンの民主党議員たちもあきらめてはいない。ホワイトハウスは、昨年末に上院で可決された法案を即座に下院で可決する計画を検討している。そうすれば(そして、オバマが署名すれば)、ブラウンが加わる上院で再びもめることなく、自動的に法案が成立する。

 そのうえで、民主党はオバマがこの数週間制定に尽力している「調整」手続きを利用したい構えだ。これは上下両院でいったん可決された法案を修正できる仕組みで、上院で必要な票は51票でいい。面倒な手法だが、実現は可能だ。

妨害工作をするのは空気が読めない議員

 ただし、妨害工作が行われる可能性はある。穏健派と保守派の民主党議員からなる「ブルードック連合」のメンバーは、怒れる地元支持者の歓心を買おうと必死になるあまり、反対票を投じるかもしれない。

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