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米外交

アフガニスタン一辺倒の大き過ぎる代償

オバマ政権もメディアも大して重要でないアフガン問題に目を奪われ、はるかに深刻な脅威を野放しにしている

2009年12月3日(木)17時58分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

冷徹な真実 多くの若者を送り込んでいなければ、アフガンにこれほど騒ぐ価値はない(12月1日、オバマのアフガン演説を待つ陸軍士官学校生) Shannon Stapleton-Reuters

 あの2001年9月11日、ニューヨーク・タイムズ紙の一面にどんな記事が並んでいたのか振り返ってみよう。服装についての校則、パレスチナ紛争、停滞するアメリカ経済、幹細胞に関する新発表──歴史に残る大事件は、人々が他のことに気を取られているときに起きるという教訓だ。

 もちろん、新聞のトップニュースがすべて重要ではない、という意味ではない。だが、この教訓は私たちに、ニュースに接する際には細心の注意を払うべきだと教えてくれる。

 アフガニスタンに関する報道についても同じことが言える。計10万人以上の米兵を危険な地に送り込むバラク・オバマ大統領の決断を、報道に値しないと切り捨てることはとてもできない。だが、アフガン問題をめぐる報道の多くが大局的な視点を失っているのも否定しがたい事実だ。

 大統領も米軍も大ニュースを追い求める記者も、アフガニスタンに気を取られて、他の話題に目がいかない。本来なら、アフガン問題はアメリカにとって、中東地域の心配事リストのトップ10にかろうじて入る程度の課題。少なくとも、これほど多くの若者が現地に派兵されていなければ、その程度の扱いだったはずだ。

アフガニスタンの優先順位は10位

 12月1日にオバマが行ったアフガニスタン新戦略に関する演説が、批評家の関心を集めている。支持派はバランスが取れた戦略と評価し、批判派は妥協案だと非難する。

 だが、そうした論争が盛り上がることで覆い隠される事実がある。オバマがアフガニスタンに注目すればするほど、そしてアメリカがアフガニスタン戦略にカネをかければかけるほど、より優先順位が高い他の問題への関心と資金が減ってしまうのだ。

 中東を例に取ろう。アフガニスタンはそもそも、アフパック(アフガニスタンとパキスタンを合わせた地域)でアメリカが直面している最大の課題でさえない(ちなみに、寝起きでぼーっとしている人のために言えば、最大の課題はパキスタンだ)。

 以下のトップ10ランキングは、アメリカが中東でかかえる課題を、より広い意味での重要性に基づいて並べたものだ。

(1)中東の石油への依存

(2)大量破壊兵器の拡散、パキスタン(核兵器の流出やインドとの紛争の可能性を含む)

(3)大量破壊兵器の拡散、イラン

(4)大量破壊兵器の拡散、中東における軍拡競争の可能性

(5)エジプトやサウジアラビアでのイスラム過激派の影響力拡大

(6)中東やロシア、中国に対するアメリカの影響力の低下

(7)イスラエル=パレスチナ和平の崩壊(さらなる紛争やイスラエルによるイラン攻撃の可能性もある)

(8)イラクにおける「アメリカの実験」の失敗

(9)ペルシャ湾岸地域の経済失政が世界と地域に与える影響(ギリシャやロシアなどへの影響を注視すべき)

(10)アフガニスタン

 なお、中東におけるアメリカの行動に厳しい制約を課しているドル安とアメリカの財政負担の問題は、極めてドメスティックなので除外したが、本来なら上位に入るはずだ。

イラン軽視で拡大する核拡散の危機

 オバマのアフガニスタン新戦略の発表と、イランが先日発表したウラン濃縮施設10カ所の増設計画を並べてみると、優先順位の低いテーマに注目が集まっている現状が明確に浮かび上がる。ウラン濃縮施設の増設が実際に可能かどうかはともかく、アメリカの敵国がこの1年、こぞって試してきたアプローチをイランも取ろうとしているのは明らかだ。自分たちに対して効果的な方法で向き合うことなどできないだろうと、アメリカを挑発するアプローチだ。

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