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米外交

東京宣言で露呈したオバマの貿易オンチ

2009年11月17日(火)18時40分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学国際政治学教授)

貿易担当者もシンガポールで困惑


 オバマは東京演説で協定に関与する方針は示したものの、参加するとははっきり言わなかった。アメリカが公式に協定参加に向けて交渉を始めると表明すれば、間違いなく国内の自由貿易反対派からの批判と議会での反発を招くことになる。

 オバマはその代わり「広範にわたる締約国が参加し、21世紀の貿易合意に相応しい高い基準を備えた地域合意を形成するという目的をもって、TPP諸国と関与」すると言った。

 この文言は、シンガポールでAPEC首脳会議の開催を待つ多くの貿易交渉担当者を困惑させた。オバマは本気で協定に参加するつもりがあるのか、否か。

 各国の政府関係者は、アメリカが環太平洋地域でより積極的な役割を果たすことを示す証拠として、協定への参加を期待している。しかしオバマ政権はいまだ確固たる貿易政策を確立できず、異なる選択肢を吟味している段階だ。

 演説後、報道陣に詰め寄られたホワイトハウス関係者の答えも、同様に煮え切らないものだった。米国家安全保障会議(NSC)の経済専門家マイケル・フローマンは、協定に関与すると言ったオバマの真意は「この協定がゆくゆく重要な枠組みになるのかどうかを見極める」趣旨だ、と言う。


 世界経済の牽引役たるアメリカの意欲は、まったく感じられない。

 外交政策の微妙なさじ加減に精通していると自負するオバマ政権だが、アジア太平洋地域では今や外交政策と貿易政策が切っても切り離せない関係になっている事実を把握しているとは思えない。

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 17/11/2009. copy; 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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