最新記事

生化学

AIから人類への贈り物、既知のほぼすべてのタンパク質の立体構造を公開 ディープマインド

2022年8月4日(木)16時45分
松岡由希子

「これは人類への授かり物であり、人工知能が社会にもたらす恩恵を表すものだ」 credit: DeepMind

<人工知能開発企業ディープマインドは、2億種以上のタンパク質の立体構造の予測に成功したことを明らかにした......>

アルファベット傘下の人工知能(AI)開発企業ディープマインド(DeepMind)は、2022年7月28日、1次元のアミノ酸配列からタンパク質の構造を予測する独自の人工知能システム「アルファフォールド(AlphaFold)」を用いて、2億種以上のタンパク質の立体構造の予測に成功したことを明らかにした。動物、植物、細菌など、既知のほぼすべてのタンパク質が網羅されている。

タンパク質はすべての生物のあらゆる生物学的プロセスを支えている。タンパク質の形状はその機能と密接に関連しているため、タンパク質の構造を知ることで、その機能や仕組みをより深く理解できる。

従来、タンパク質の立体構造は、X線結晶構造解析(XRC)や電子顕微鏡法といった高価で時間のかかる実験的手法を用いて決定されてきた。これまでに実験的手法によって立体構造が決定されたタンパク質は19万種程度にとどまっている。

公開されたデータベースに世界190カ国50万人以上の研究者がアクセス

ディープマインドは2016年から人工知能を活用したタンパク質の構造予測に取り組んできた。2020年1月15日にディープラーニング(深層学習)を用いたタンパク質の構造予測の手法を学術雑誌「ネイチャー」で発表したのに続き、2021年7月15日には、「アルファフォールド」の詳細な手法をまとめた研究論文とともに、ソースコードをオープンソース化した。

alphafold-model-accuracy.jpeg

実験データ(緑)と AlphaFold によるタンパク質構造予測(青)の例。credit: DeepMind


さらに、欧州分子生物学研究所(EMBL)の欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)と提携し、「アルファフォールド」が予測したタンパク質の立体構造を集めた「アルファフォールド・プロテインストラクチャー・データベース」を構築。2021年7月22日、ヒトプロテームのタンパク質全2万種を含む35万種以上のタンパク質の立体構造を公開した。

この専用データベースにはこれまでに世界190カ国50万人以上の研究者がアクセスし、マラリアワクチンの開発や昆虫免疫に重要なミツバチのタンパク質「ビテロジェニン」の構造解明、プラスチックの再生など、様々な研究で活用されている。

「これは人類への授かり物、人工知能が社会にもたらす恩恵」

最新のデータベースでは「アルファフォールド」が予測した2億種以上のタンパク質の立体構造が公開されており、"グーグル検索"するだけでタンパク質の立体構造の予測モデルに瞬時にアクセスできる。

ディープマインドのCEO(最高経営責任者)兼共同創業者デミス・ハサビス氏はツイッターで「これは人類への授かり物であり、人工知能が社会にもたらす恩恵を表すものだ」と投稿し、その成果を強調している

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ビジネス

午後3時のドルは154円前半、中東リスクにらみ乱高

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 販売台数が見

ビジネス

日経平均は大幅反落、1000円超安で今年最大の下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中