最新記事

銃規制

3Dプリンター製の自動小銃が米社会に及ぼす脅威

EASY TO MAKE 3D-PRINTED GUNS

2021年3月12日(金)17時20分
アリ・シュナイダー(ジャーナリスト)

3Dプリンターを使って自作した半自動小銃FGC9 CTRLPEW-YOUTUBE

<誰でも手軽に完成できる「FGC9」の作り方がネットで拡散中、銃デザイナーが語る真意と責任とは>

新年早々、アダルトサイトのポルノハブに重低音の響く物騒な動画が登場した。投稿したのはリバタリアン党ニューヨーク州オーリンズ郡支部長で、モリー・スマッシュの芸名で知られるポルノ女優でもあるチェース・トカーチ。いや、過激なセックス動画ではない。3Dプリンターさえあれば誰でも簡単に作れる半自動式小銃のプロモーションビデオだ。政府には絶対ばれず、複数回の使用にも耐えるという。

誰もが自宅で、3Dプリンターで本物の銃を作れるようになったのは2013年頃のこと。最初はすごく原始的で、1発撃ったら壊れてしまうような代物だったが、ここ数年で長足の進歩を遂げた。

今ではアサルトライフルのAR15やAKM、半自動小銃もプリンターで作れる。製造番号は入らないし、銃火器登録も必要なく、所持の事実を政府に知られることもない。

ただし3Dプリンターで可能なのは、つい最近までは銃のロアレシーバー(法的規制の対象となっている機関部)だけで、完成させるには弾倉や引き金、銃身などを買いそろえる必要があった。アメリカなら機関部以外の部品は何でも簡単にネットで購入できるが、ドイツを含めた銃規制の厳しい国では、庶民が弾倉などを購入するのは困難だ。

そんな状況が去年、一変した。9ミリ口径弾を連射できる半自動小銃を3Dプリントできるデータ集がネットで発表されたからだ。最難関の銃身も、市販の鉄パイプを買ってきて加工すればOK。ちなみに製品名は英語の「銃規制なんてクソくらえ」の頭文字を取ってFGC9だ。

安くて簡単ですぐに完成

この手の技術に弱い人向けに、親切なマニュアルも用意されている。適したプリンターの型や弾丸の作り方、鉄パイプを銃身に加工する方法も指南してくれる。銃身が鉄製だと金属探知機に引っ掛かるが、それも想定の範囲内。少なくともアメリカでは、金属探知機で検出できる限り、自家製3Dプリント銃の所持も合法とされているからだ。

手元に250ドル前後の3Dプリンターと基本的な工具があれば、あとは銃身加工の道具に約100ドル、他の材料に約100ドルかければいい。ちなみにスミス&ウェッソン製の半自動ライフルM&P15スポーツ(AR15型の中位機種として人気)は店頭価格が約750ドルから。工作好きの人なら、FGC9は1週間もあれば完成できる。経験ゼロの人でも、まじめに勉強すれば2週間程度でできるだろう。

トカーチの動画を編集したのはアレックス・ホラデーという男で、銃支持派団体ディターレンス・ディスペンスト(分散された抑止力)のコンテンツ担当者。この団体は3Dプリンターによる銃の製造を仕掛けるネット上のグループチャットで、FGC9を考案した欧州出身者の通称Jスターク(別名ジェイコブ)や通称「トロールのアイバン」というアメリカ人も参加している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレリスクは上振れ、小幅下振れ容認可能=シュナ

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 10
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中