最新記事

プラスチック・クライシス

プラスチックごみの不都合な真実、業界は「冤罪説」を唱えるが...

WHY THE PLASTIC CRISIS MATTERS

2019年11月19日(火)16時35分
フロイラン・グラテ(GAIAアジア太平洋事務局長)、リリ・フーア(ハインリヒ・ベル財団環境政策部長)

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集24ページより

<プラスチック危機はただのごみ問題ではない。温暖化にも影響する深刻な環境問題の解決策をデータから考えると――。本誌「プラスチック・クライシス」特集より>

海岸にあふれ、海洋を汚染するプラスチックごみが大きな問題になっている。メディアが危機的な状況を伝え、各国政府はレジ袋など使い捨てプラスチックの規制に乗り出した。
20191126issue_cover200.jpg
これに異を唱えるのはプラスチック業界だ。プラスチックは私たちの生活に欠かせない有用な素材であり、問題は消費者のポイ捨てや一部自治体のごみ処理のずさんさにあると、彼らは主張する。寝たきりの病人や高齢者にはプラスチックのストローは必需品だし、スーパーの棚に並ぶ生鮮食品用のラップが使用禁止になれば大量の肉や野菜が腐って廃棄されることになる、というのだ。

途上国、さらには多くの先進国でも、ごみの収集・処理システムの整備が焦眉の課題であることは事実だ。そうであっても、豊かな国が「リサイクル」の名目で価値のないプラスチックごみを貧しい国に大量に輸出する慣行は許されない。先進国の消費者が分別したごみは、コンテナ船で東南アジアに運ばれ、危険な労働環境に置かれた低賃金労働者が処理することになる。結果、その多くはごみ捨て場か川や海に捨てられる。

さらに大きな問題は、身の回りにあふれるプラスチックがほかの汚染源と結び付いて、多様な生物を絶滅に追い込み、気候変動に拍車を掛け、自然資源を枯渇させつつあることだ。ハインリヒ・ベル財団とブレーク・フリー・フロム・プラスチック運動が最近発表した報告書「プラスチック・アトラス」はまさにそんな事態を浮き彫りにした。

magSR191119plastic2-b2.png

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集25ページより

この報告書は、プラスチックが過去70年間で私たちの生活に不可欠なものとなった背景をたどり、さまざまな事実やデータを集大成したものだ。それによって明らかになったのは、プラスチック業界が事実と異なる説明で消費者をミスリードしてきたこと。プラスチック危機はただのごみ問題ではない、はるかに大きな問題だ。

この問題は石油と天然ガスが採掘される時点から始まるが、終わりは海洋や生態系にプラスチックごみが入り込んだ時点ではない。プラスチックの生産過程では大量の温室効果ガスに加え、多様な化学物質も環境中に放出され、その多くが最終的に私たちの体内に入るのだ。

見落としてはならない肝心な問題がある。そもそも世界は必要量をはるかに超えるプラスチックを生産している、という事実だ。1950年から2017年までに、世界中で生産されたプラスチックは92億トン。しかも2000年以降の生産量がその半分以上を占める。今も生産量は年々増加の一途をたどり、歯止めがかかる兆しは見えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中