最新記事

ヘルス

肥満度を示すBMIより、健康度の指標「メタボローム」に注目

A Better Measure Than BMI

2018年11月12日(月)17時10分
カシュミラ・ガンダー

BMIの数値だけに一喜一憂するのは考えものだ YURI_ARCURS/ISTOCKPHOTO

<世の中には「健康的な肥満」の人もいる。正確な健康リスク予測のカギは「肥満度」より「代謝」にあり>

身長と体重から算出するBMI(ボディー・マス・インデックス)は肥満度を示す値とされてきたが、健康度の基準としてはイマイチとの批判もある。そこで新たな指標が登場した。メタボロームだ。

メタボロームは生物の細胞や組織の内部でタンパク質や酵素がつくり出す、糖類(グルコース)などの代謝物質の総称。代謝物質はタンパク質や遺伝子と違って変異することがない。そのため、生体内で起きていることを測定するには特に有益だ。例えば糖類は人間の体内でもイソギンチャクの体内でも大して変わらない。

そのメタボロームが肥満の蔓延と戦うのに役立つという。米スクリップス研究所のアマリオ・テレンティ教授(ゲノム学)らが10月11日付で科学誌セル・メタボリズム(オンライン版)に発表した。

現在、肥満度の計算式として一般的なのはBMI(体重〔キロ〕÷身長〔メートル〕÷身長〔メートル〕)だ。米疾病対策センター(CDC)によれば、BMIが高いほど体脂肪量が多い可能性が高い。

有益な手法だが余分な体脂肪や体脂肪の分布はつかめず、年齢、性別、人種、筋肉量など個人の健康に重要な影響を及ぼし得る要素も考慮していない。今回の研究でも、BMIが全く同じでもインスリン抵抗性や体脂肪率には個人差があることが分かった。

「より健康的な肥満」も

テレンティらは2396人を対象に、BMIなどの情報と、X線による全身スキャン結果およびゲノム(全遺伝情報)の配列を収集。一人一人の代謝特性を明らかにするため、1000を超える代謝物質も調べた。

その結果、代謝物質を測定すれば肥満かどうかを80~90%の確率で正確に割り出せたという。個人の遺伝子はメラノコルチン4受容体(MC4R)の変異など極度の肥満と関連があるとされるものを除き、肥満度に大きな影響はなかった。代謝特性に個人差がある原因は不明だが、食習慣や運動など生活様式の違いが影響している可能性が高い。

テレンティらが指摘する意外な所見は3つ。まず、肥満に関連する決定的な代謝の変化はあるが、これ以上なら肥満という明確なラインはないこと。次に、体重を減らせば代謝異常はすぐ治ること。

そして太り気味や肥満であっても体調のいい人はいること。つまり「より健康的な肥満」が実際にあるのだ。一方で体重は普通だが、代謝は肥満並みで健康に影響が出ている人もいる。

研究が進めば、特定の疾患にかかる危険性がより高いグループを突き止めるのに使えるはずだと、研究チームは指摘する。「BMIだけでなく個人のリスクに応じた治療などができる」

肥満だけでなく他の健康リスクを察知するバロメーターとしての、BMIの有効性をめぐる議論にも拍車が掛かりそうだ。

2016年の研究報告では、BMIで「太り気味」の人の半数が血圧や血糖値やコレステロール値で見ると心血管代謝は健全で、逆にBMIで「普通」の人の3分の1は代謝に問題があった。BMIが普通でも油断は禁物だ。

<2018年11月13日号掲載>

※11月13日号は「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」特集。サラエボの銃弾、真珠湾のゼロ戦――世界戦争はいつも突然訪れる。「次の震源地」から読む、日本人が知るべき国際情勢の深層とは。

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府債務の増加、米の「特別な地位」への最大リスクに

ワールド

米政権、FRB議長後任視野に26年初の新理事任命も

ワールド

トランプ氏、貿易交渉拒否国に個別関税設定 週内に通

ワールド

米、イスラエルとシリアと「予備協議」 安保協定の可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中