最新記事

温暖化を加速させるホットハウス現象

【新説】「ホットハウス現象」が地球温暖化の最後の引き金に

HOTHOUSE EARTH

2018年9月11日(火)11時15分
アリストス・ジョージャウ(本誌記者)

JOSEPH GIACOMIN-IMAGE SOURCE/GETTY IMAGES

<たとえパリ協定の排出基準を守っても、歯止めなき温暖化が進行し多くの土地が居住不能に──。衝撃の新説が波紋を呼んでいる。本誌9/11発売号「温暖化を加速させるホットハウス現象」特集の記事「地球を襲うホットハウス現象」より一部抜粋>

※本誌9/18号(9/11発売)は「温暖化を加速させるホットハウス現象」特集。驚異的な暑さと異常気象が世界を襲うなか、温暖化対策の前提や道筋が大きく揺らいでいる。目指すべき新たな道を見いだすカギは?

この夏、世界の多くの地域が記録的な熱波に襲われ、北極圏ですら高温の日が続いた。しかし、ひょっとすると、これはまだ入り口にすぎないのかもしれない。最近、これまでの気候変動をめぐる概念を覆す新説が登場し、注目を集めている。

それによると、たとえ今から温室効果ガスの排出量を削減しても、既に始動している温暖化が自然界のほかの現象の引き金を引き、その結果として制御不能な温暖化が進行する可能性があるという。

温暖化によりアマゾンの熱帯雨林が縮小したり、北極の永久凍土と南極の海氷が解け出したりすると、熱帯雨林や永久凍土や海氷に貯蔵されていた二酸化炭素(CO2)が大気中に放出され始め、温暖化の進行に歯止めが利かなくなるというのだ。この現象は「ホットハウス・アース(温室化した地球)」と名付けられている。

現在、世界の平均気温は産業革命前に比べて約1度高く、10年間に約0.17度のペースで上昇している。気候変動による最悪の事態を避けるためには、産業革命前に比べた気温上昇を2度までに抑えることが不可欠だと、大半の専門家は考えている。気候変動に関する15年のパリ協定でも、この目標の達成に向けて世界の国々が合意した。

しかし、8月6日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された論文によると、世界の国々がパリ協定で合意されたCO2排出量を守っても、この目標を達成することはこれまでの想定以上に難しそうだ。最悪のシナリオでは、ホットハウス現象により世界の平均気温は産業革命前と比べて4~5度高くなり、海水面は最大で60メートル上昇するという。

なぜ、そんなことが起きるのか。地球の気温を左右する要因は、人間が排出する温室効果ガスだけではない。ホットハウス説では、人間の活動が原因で2度の温暖化が進んだ場合、自然界のさまざまな現象(「フィードバック」と呼ばれる)が動き出し、それが極度の温暖化に拍車を掛けかねないとされる。人間が温室効果ガスの排出をやめても、その状況は止められない可能性があるという。

この新しい研究は、10のフィードバックに着目している。その中には、一定の「臨界点」を超えると、一挙に大きな変化を引き起こしかねないものも含まれている。このようなフィードバックが大きな変化を生み出すまでには、たいてい何世紀もかかるが、いくつかは今後100年の間に進行し始めても不思議はない。

10のフィードバックには、夏季の北極と南極における海氷の減少による気温の上昇、北極と南極の氷床の減少、陸上と海洋の生態系によるCO2吸収の減少、海洋におけるバクテリア増殖によるCO2の放出、アマゾンの熱帯雨林の大規模な枯死によるCO2の放出などが含まれる(25ページ図参照)。

止められないドミノ現象

「ドミノ現象が起きる恐れもある」と、論文の共同執筆者であるストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム所長は指摘している。「1つの要素が限界を超えれば、ほかの要素も加速し始める。そうしたドミノ現象を止めるのは、不可能とまではいかなくても、非常に困難かもしれない。ホットハウス・アースが現実化すれば、地球上の多くの場所が人間の住めない土地になる」

magSR180911-chart.png

本誌24ページより

【参考記事】2045年までに化石燃料全廃 カリフォルニア州知事への称賛と批判

※本記事は、本誌9/18号(9/11発売)「温暖化を加速させるホットハウス現象」特集の記事「地球を襲うホットハウス現象」を一部抜粋したものです。特集号はこちらからお買い求めになれます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

ニュース速報

ワールド

中国、米大使呼び厳重抗議 ロシア兵器購入巡る制裁で

ワールド

合意なきブレグジット、独労働市場への影響は限定的─

ワールド

モルディブ大統領選、野党候補が勝利宣言 中国重視の

ワールド

OPECと非加盟産油国、増産見送り トランプ氏の要

MAGAZINE

特集:リーマンショック10年 危機がまた来る

2018-9・25号(9/19発売)

貿易戦争、新興国の通貨急落、緩和バブル崩壊...... 世界経済を直撃した未曽有の危機が再び人類を襲う日

人気ランキング

  • 1

    米関税免除の成功に沸いた韓国鉄鋼界 代償の割り当て枠で苦境、日本と明暗

  • 2

    沈みゆく船を見切ったアリババ会長ジャック・マーが電撃退任

  • 3

    中国婚活ブームの意外な仕掛け人は共産党

  • 4

    SNSのイタイ「セクシー自撮り」に隠された本音 他に…

  • 5

    北方領土をめぐって交錯する日本とロシアの思惑

  • 6

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 7

    沖縄県知事選挙に吹く、新しい風

  • 8

    「まぶた失い眠れない」 イギリスで急増する硫酸襲撃…

  • 9

    中国、火鍋からネズミの死骸が出て株価暴落、損失1.9…

  • 10

    アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度…

  • 1

    「まぶた失い眠れない」 イギリスで急増する硫酸襲撃の恐怖

  • 2

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 3

    アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度と戻らない状態に

  • 4

    SNSのイタイ「セクシー自撮り」に隠された本音 他に…

  • 5

    整形、年齢詐称、生存競争......中国ストリーミング…

  • 6

    酸攻撃に遭い地獄を見た女性「誰にも醜いとは言わせ…

  • 7

    日本の空港スタッフのショッキングな動画が拡散

  • 8

    自爆少女たちは爆弾と知らずに吹き飛ばされていた

  • 9

    中国、火鍋からネズミの死骸が出て株価暴落、損失1.9…

  • 10

    『アンネの日記』から明かされた「下ネタ」でアンネ…

  • 1

    「まぶた失い眠れない」 イギリスで急増する硫酸襲撃の恐怖

  • 2

    日本の空港スタッフのショッキングな動画が拡散

  • 3

    絶対に手を出さないで――死に追い込むゲーム『モモ自殺チャレンジ』が無料サイトに登場し不安広まる

  • 4

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 5

    中国、火鍋からネズミの死骸が出て株価暴落、損失1.9…

  • 6

    自殺に失敗し顔を失った少女の願い――「何が起きても…

  • 7

    性拷問、昏睡死......北朝鮮・外国人拘束のあこぎな…

  • 8

    アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度…

  • 9

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の…

  • 10

    ペットボトル入りミネラルウォーターの9割にプラスチ…

資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版

ニューズウィーク日本版特別編集 レゴのすべて

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月
  • 2018年4月