最新記事
社会貢献

組み立て式で「エアレス」!? UEFA公式球も製造する日本企業が不思議なサッカーボールを作った理由

2023年11月10日(金)17時40分
井上 拓

一方、これまでにも日本から支援の一環として、ボールや道具を途上国に寄付することはよくあった。寄贈するためのボールを安く大量に製造できないかという相談を引き受けることも多々あった。ただ、裾野にあるのは、現地でボールがパンクしたときに修理をすることが難しかったり、輸送するための梱包が嵩張りコスト増につながったりと、ボールを贈るだけでは解決しない問題だ。

そこで内田氏は、ただボールを贈るだけではなく、贈った先にいる子どもたちが成長するきっかけを届けること、そして環境に配慮した素材で「エアレス」なボールを開発し、その持続可能なボールを提供することという2つのコンセプトにたどり着く。モルテン社内でもこれまでにない挑戦的なプロジェクトの枠組みとして始まったという。

nendoが参画、組み立て式を採用した利点

企画の初期段階からデザインパートナーとして参画したのは、東京オリンピックの聖火台やフランス高速鉄道TGVの内装、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の「日本館」総合監修等で世界的な評価を得ている佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス「nendo」。nendoから提案された複数のプロダクトデザインから、竹鞠やセパタクロー(ネットを挟み、足や頭を使ってボールを相手コートに返し合うスポーツ)のボールの構造に着想を得た、組み立て式の案を採用した。

デザイン案の構造を実現するエンジニアリングはもちろん、モルテンらしい使用感にもこだわり、大きく5段階くらいの開発ステップを経ながら、試作のプロトタイプは100パターン近くにも上ったそうだ。

「MY FOOTBALL KIT」

素材は再生ポリプロピレン約70%に、エラストマーを配合。社内エンジニアとも試行錯誤しながら、工具は使わず、3種類のパーツを開発した。再生紙の組み立て説明書は、イラストを主体にして「無言語化」されており、色弱の人にとっても見やすいようなデザイン。全ての子どもたちが考えて組み立てられる仕様になっている

nendoとの共同開発による組み立て式を実現したことでパーツのまま運ぶことが出来るため、結果的に輸送コストの削減にもつながった。また社員同士の対話からアイデアも膨らみ、燃やしたときに有害物質を発生させない不織布バッグを採用。イラストを主体にした説明書も再生紙にするなど、製品以外にも環境配慮を採用していった。

そして、学習塾「花まる学習会」代表の高濱正伸氏からアドバイスを得て、自らが考えながら組み立てることで、立体認識や空間認識力、論理的に考える力を自然と身につけることができる、教育的にも貢献できるサッカーボールというお墨付きももらえた。

モルテン全社のSDGs意識にも良い影響

「贈るだけではなくて、教育や成長を届ける」というこの新しいサッカーボールは現在、従来の一般販売の方式ではなく、企業による協賛支援のビジネスモデルをベースに着実に受注数を伸ばしている。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中