最新記事
SDGs

世界一幸福な国は2035年カーボンニュートラル達成へまい進 社会変革を目指すフィンランドのスタートアップ企業

2023年10月16日(月)17時20分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

森林の土壌にいる菌からたんぱく質を

ソーラー・フーズ社の工場とプロテイン「ソレイン」

ソーラー・フーズ社の微生物は、この機械の中で増殖する。乾燥させると黄色いプロテイン「ソレイン」になる。粉の写真©ソーラー・フーズ

日本で一般に親しまれているプロテインの粉は、牛乳や大豆が原料だ。一方、ソーラー・フーズ社(2018年設立)のプロテインの粉は、フィンランドの森の土壌にいる菌を原料としている。数え切れないほどの微生物の中から選んだ1つの菌に栄養分を与え増殖させる。光合成の20倍効率的なプロセスだという。それを乾燥させると、粉状の黄色いプロテイン「ソレイン」が出来上がる。「ビールやワインと同じ製造法です」とCXO(Chief Experience Officer=最高経験責任者)のラウラ・シニサロさんは説明する。

ソレインは食品業界に販売し、あらゆる飲食品に使ってもらう計画だ。今年5月、ソレインは、シンガポールで初めて食品として紹介された。来年からヘルシンキの新工場が稼働し、ソレインを大量生産する。実際にソレイン(粉末)を口にしたところ少し甘かった。ソレインを使った料理も試食したところ美味しいと感じた。食べやすく、普及する可能性は高いかもしれない。

「Solein」による調理例

「ソレイン」の黄色は菌のカロテン(カロチン)色素。栄養成分は乾燥大豆や藻類と似ており、65~70%がタンパク質(体内で作り出せない必須アミノ酸9種を全て含む)、10~15%が食物繊維、5~8%が脂肪、3~5%がミネラル。©ソーラー・フーズ

筆者は、フィンランドの環境ビジネスについてはこれまであまり知らなかったが、今回の取材で興味深いビジネスを次々と目の当たりにし、このような「新しいイノベーション」に囲まれる暮らしを想像したら、興奮が冷めやらなかった。

また、そういった消費者目線とは別に、これらの新しい技術を見て感じたことは、各社の気概が並々ならないということだ。気候変動対策としては一社の新製品では微力でも、フィンランド全体やヨーロッパで、皆でがんばっていこうという姿勢がひしひしと感じられた。

もう1つは、女性が重要な任務に就いていること。訪問した企業やVTTでは、女性が多数派だった。フィンランドは職場でも男女平等を実践していると聞いていたが、本当にそうであることに少なからず衝撃を受けた。日本では、気候変動対策や技術開発において人材不足の問題も指摘されている。女性がもっと活躍できれば、環境対策が加速するのではないか。

その一方で、課題もあるのではないかと感じた。新しい製品が、考え方や価格の点で、ほかの企業や一般の人々にどれくらい受け入れられるだろうか。もしかしたら、期待するほどには広まらないこともあるだろう。

だが、こうした課題はあるにせよ、気候変動対策に前進しているフィンランドの企業の姿勢はやはり高く評価したい。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中