「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞の遺伝子に火を点ける「プルアップ」とは何か?
プルアップを練習し続けると広背筋が狂ったように広がり出し、肩甲骨の周りの筋肉がとぐろ巻いた蛇のようになり、僧帽筋が鉄の桁よりも厚く、硬く、せり出してくる。プルアップで使われる体幹の筋肉も、引っ張られるごとに大きく強くなっていく。
どんなエクササイズよりも、短期間で背中に大きな筋肉をつくるのがプルアップだ。しかし、筋肉が大きくなるのは、プルアップがつくる機能性が高い筋力の副産物にすぎない。海兵隊で、新兵をしごく教官をやっていた友人がいる。
毎年、大きくて体重があるボディビルダーが新兵としてやってくる。だれもが自分はとてつもなく強いと自負していて、その多くが、プッシュアップを一日中やっていられる。
しかし、突撃訓練場での壁越えや、ロープクライミングなど、自分の体を引き上げる訓練をやらせると、すぐに音をあげたと言う。自分の体ではなくウエイトという対象物を挙げて背中の筋肉をつくってきたからだ。彼らには、機敏に体を動かす機能性に欠けた「強さ」しかないということだ。
グリップの強さは、筋力にとって不可欠だ。バーを握って自分の体を上下に動作させるプルアップがそれをつくる。特別なグリップトレーニングをしなくても、プルアップだけで、指と手のひらが強くなる。前腕にある屈筋も強靭さを増す。
プルアップは腹部と股関節にも強さをもたらす。地面から両脚を持ち上げて保つ動作が、それらの部位へのアイソメトリックトレーニングになるからだ。初心者がハードにプルアップのトレーニングをすると、次の日、広背筋よりも腹部に痛みを感じることも多い。
ポール・ウェイド(PAUL"COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で 〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。
『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』
ポール・ウエイド [著]/山田雅久 [訳]
CEメディアハウス[刊]
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