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アングル:米法科大学院の志願者増加、背景にトランプ政権と就職難

2025年09月07日(日)08時02分

9月28日、 米国で今年秋、法科大学院に入学した数千人の新入生は、例年より厳しい入試選抜を勝ち抜かなければならなかった。写真はワシントンの米最高裁前で写真を撮る法科大学院卒業生ら。2021年5月撮影(2025年 ロイター/Andrew Kelly)

Karen Sloan

[28日 ロイター] - 米国で今年秋、法科大学院に入学した数千人の新入生は、例年より厳しい入試選抜を勝ち抜かなければならなかった。志願者が増えた背景として、政治情勢と就職難という2つの要因が指摘されている。

法科大学院入学委員会のデータによると、米国の法科大学院志願者数は昨年に前年比18%増と急増し、増加率は2002年以来の大きさとなった。志願者数は7万6599人で、1万2000人増。前年は5%増だった。米法曹協会(ABA)認定の法科大学院は24年に約4万人の学生を受け入れた。

「昨年の状況はわれわれ全員にとって予想外だった」と、法科大学院入学コンサルタントのマイク・スパイビー氏は語る。

来年の志願者数は今年と同程度か、それ以上になる可能性がある。8、9、10月の法科大学院進学適性試験(LSAT)の登録者数と受験者数が、いずれも前年比で2桁%増加しているからだ。

急増の背景については議論があるが、大半の専門家は大卒者の就職市場の低迷と、政治情勢によって法学が脚光を浴びたことが相まった結果だとみている。過去5年間に法科大学院卒業生の就職率が高かったことと、LSATの試験内容変更も寄与しているという。

ミシガン大法科大学院のサラ・ジアーフォス上級副学部長は「さまざまな要因が重なっている」と語る。同大学院の志願者数は33%増えた。

カリフォルニア大バークリー校法科大学院のアーウィン・ケメリンスキー学部長は、トランプ米大統領の復帰が最近の志願者急増の主因だと考えている。

「環境保護を望む人々からの声が非常に増えた。彼ら彼女らは市民の自由を守りたがっている。移民の権利を守りたがっている。(トランプ氏の政策に)反撃したい学生らは『法科大学院がその手段だ』と言っているのだ」

昨年の大統領選でトランプ氏の対抗馬の民主党候補だったカマラ・ハリス前副大統領は、選挙戦で検察官としての経歴を強調し、法律、政策、裁判に関する議論が注目を集めたとジョージタウン大法科大学院の入学担当部長アンディ・コーンブラット氏は指摘。トランプ氏の政策をめぐる主戦場に法廷が浮上し、ソーシャルメディアによって法廷劇を追いやすくなったことで法律への関心が強まったと説明した。

コーンブラット氏は前年比で24%増えた同大法科大学院の志願者1万4000人のうち約5000人と面接。志願者らは前世代よりも熱意に燃えており、多くが、トランプ氏の政策に反対するためであれ擁護するためであれ、自らの力を実感したいと望んでいると指摘した。

「特に20代の若者の間で、法廷を主戦場と見なす者が増えている。私の親世代、おそらく私自身も、主戦場は企業取締役会だと思っていた。今やそれが法廷になった」

<就職市場>

これに対してスパイビー氏は、志願者急増の主因は経済状況であり、政治情勢や法律への社会的関心は二次的な要因だとの見方を示す。

景気後退時には法科大学院志願者が増加する傾向にある。現在は景気後退期ではないものの、新卒者の就職見通しは厳しいとスパイビー氏は述べた。

ニューヨーク地区連銀の最新データによると、2025年の大学新卒者の平均失業率は5.3%で、全労働力人口の失業率4%を上回った。新卒者の41%超が不完全雇用の状態だ。

「就職先が見つからないなら、法科大学院や他のプログラムに願書を出すしかない」とスパイビー氏は言う。

一方、アクセスレックス法律教育センターのアーロン・テイラー執行ディレクターは、法科大学院の学位が現在特に魅力的に映るのは、最近の卒業生の大多数が迅速に就職を果たしているからだと指摘する。米法曹協会(ABA)と全米法律職就職協会(NALP)はともに、23年と24年に法科大学院卒業生の就職率が過去最高を記録したと報告している。

NALPの調査によると、24年卒業の法務博士号取得者の93.4%が卒業後10カ月以内に就職した。

テイラー氏は「新卒者の就職率は過去最高水準で、給与の中央値も最高記録を更新している」とし、「これらの数字は法学教育の『投資』価値を裏付けている」と説明した。

LSAT受験者数が増えているため、始まったばかりの今年の法科大学院募集サイクルにおいて全国の志願者数は高水準を維持するか、さらに増加すると関係者らは予測している。

「初期データを見ると、3年連続の増加となりそうだ」とスパイビー氏は話した。

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