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その一杯が長寿をつくる──家康も愛した、スーパーで買える「陣中インスタント食品」の正体

2025年7月9日(水)18時39分
笹間 聖子(フリーライター、編集者)*PRESIDENT Onlineからの転載

天下人が愛した味噌に起こった「騒動」

数多い味噌のなかで、今回ご紹介するのは「徳川家康が愛した」といわれる「八丁味噌」だ。八丁味噌は豆味噌の一種。豆味噌はほかの味噌と違い、米麹、麦麹を使わず豆麹を使うのが最大の特徴である。大豆と食塩、水だけで長期間発酵・熟成しており、おもに愛知県で作られている。というか元々は、「八丁味噌」と名乗れるのは、岡崎城から「八丁(約870m)」離れた場所で作られる味噌蔵の味噌だけだったそうだ。

現在も残る、まるや八丁味噌(通称まるや)と、八丁味噌(通称カクキュー)の2軒の味噌を指した名称だったのだ。この2軒の味噌づくりには400年以上続く、「2年以上天然醸造」「低水分木桶仕込み」などの厳然たるルールがある。


ところが2015年、「八丁味噌騒動」といわれる事件が起きた。八丁味噌への世間的な認知度が高いため、愛知県で豆味噌を作っている味噌蔵数軒が加盟する「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」が、「自分たちも八丁味噌を名乗りたい」と政府に申し出たのだ。これが認められ、同組合が2017年にGI(地理的表示)産品の生産者として「八丁味噌」の名称を取得する。

しかしながら、組合には八丁味噌の元祖である「まるや」と「カクキュー」が入っておらず、彼らが八丁味噌と名乗れなくなる危機に瀕したのだ。組合に参加する味噌蔵のなかには、「2年以上天然醸造をしていない」ところもあるなど、八丁味噌の在り方自体が変わってしまうというのではという議論もあった。

「味噌煮込みうどん」は理にかなっている

そこで「まるや」と「カクキュー」は「八丁味噌協同組合」を起ち上げ、2018年に不服審査を請求する。2021年には、「まるや」による行政訴訟も行われた。この訴訟は、一度は敗訴するが、2度めの訴訟を受けて2025年1月、元祖2軒が八丁味噌のGI産品生産者に追加登録された。この判決を受けて、「新しい八丁味噌」と「昔ながらの八丁味噌」が林立することとなったのだ。

同じ名称なので、消費者は「昔ながらの八丁味噌を食べたい」と思ったら、「まるや」と「カクキュー」から購入するしかない。新旧の八丁味噌の最も大きな違いは、「2年以上天然醸造をしているか否か」である。歳月の違いで大きく変わるのは、乳酸菌含有量と使用方法だ。

加えて、「昔ながらの八丁味噌」は、乳酸菌の含有量が多く酸味が強いので、煮込んで沸騰させ、酸味を旨味に変える必要がある。古くなったキムチを炒めて酸味を和らげるのと同じ効果だ。名古屋で「味噌煮込みうどん」などが愛されているのはそういう理由からなのだ。「新しい八丁味噌」は乳酸菌含有量がそこまで多くはないので、沸騰させなくても使える。

どちらを選ぶかは好み次第だが、乳酸菌は悪玉菌の繁殖を抑制するほか、便通の改善、コレステロール値の低下、免疫力の強化、ピロリ菌の抑制などの効果も認められている。

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