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近しい人を見送るとき...母の最期に立ち会えなかった作家が「最期に立ち会えなくても大丈夫」と思えた理由

2025年4月30日(水)16時30分
尾崎英子

亡くなる数日前まで、起き上がることもできない容態だというのに、「わたし、死なないから大丈夫よ」と言っていたというのだから。虚勢を張っているのでもなく、心からそう信じているようで、それを証拠づけるものが、母の部屋から見つかった。

「あっ、これやわ」

長女が持ってきたのは、母のベッドの枕元にあったピラミッド型のオブジェみたいなものだった。およそ一〇センチほどの四角錐で、真鍮のような金属でできており、エジプトの壁画を模倣した横顔の人物たちが彫られている。上の部分がパカッと開く構造になっていて、中には小さく四つ折りにされたメモがいくつかしまわれていた。

「何なの、これは」

いぶかしげに私は眉をひそめた。

「この中に願い事を入れておくと叶うんだって、お母さん、通販で買ってたよ」

ほほう、いかにも。母の心を掴みそうな一品である。ということは、この四つ折りになったものは、母の願い事ということか。わたしと姉はしばらく見つめ合ってから、「見てみよう」 とほぼ同時に頷き合い、それらを開いてみた。

ラーの大神さまも困惑の母の願い事

深刻な病におかされていたのだから、その治癒を願うものが出てくるのだろうと予想したら。

『ラーの大神さま 携帯電話が見つかりました! ありがとうございます!』
『ラーの大神さま ○○氏の記事が、アメリカの○○誌に掲載されました! 心より感謝いたします!』

こんなことをお願いされたって、エジプトの太陽神も困惑すると思うが......。そしてたった一枚も、病気にかんする願い事はなかったのだった。

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