最新記事
医療

【最新医療】最大10年かかる...機械学習で「強直性脊椎炎(AS)」を早期発見へ

FOR THE EARLY DIAGNOSIS OF AS

2025年3月7日(金)17時04分
ジョナサン・ケネディ(スウォンジー大学データ研究所責任者)
【最新医療】最大10年かかる...機械学習で「強直性脊椎炎」を早期発見へ

症状が進行すれば、脊椎固定術が必要になることも ILLUSTRATION BY SCIEPRO/SHUTTERSTOCK

<診断遅れを防ぐ新たな可能性、英国の研究チームのデータ分析で見えてきた発症リスク要因と診断の可能性とは?>

強直性脊椎炎(AS)は炎症性関節炎のうち2番目にかかりやすい病気で、多くは10代や成人若年期に発症する。

症状は背中の痛みやこわばり、関節の炎症、腱が骨に付着する部分の炎症(付着部炎)、だるさや疲れやすさだ。こうした症状が時間の経過とともに進行すれば、脊椎固定術が必要になることもあり、特に若者の場合は生活の質(QOL)が大きく左右される。

残念ながら、通常はX線検査が必要になるASの診断には、発症から最長10年間もの時間がかかる。進行が遅く、決定的な検査法が存在しないことが理由の一部だ。


だが早期に発見できれば、極めて大きな違いにつながる。変性を食い止め、高いQOLを保つことが可能になる。

ならば、一般開業医や病院で収集される医療データと、高度な機械学習手法を組み合わせて、初期段階のASを特定することはできないか──。アルゴリズムを用いて標本データを分析する機械学習では、明示的なプログラミングなしに予測や決定を行える。

筆者ら研究チームは、英スウォンジー大学医学部にある国家データバンクから抽出した匿名データを、男女別に分析。ASの患者を特定し、診断歴のない対照群と比較した。

その結果、男性の場合は腰痛や眼内のぶどう膜炎、20歳未満での非ステロイド性抗炎症剤の使用が、AS発症リスクの大きさと関連していることが判明した。

一方、女性はASの発症時期がより遅く、複数の鎮痛剤を使用する場合が多い。これはおそらく、女性のほうが誤診されている可能性が高いことを示している。

医療の「守秘」がネック

機械学習は、ASを発症しやすい人の特徴を理解するツールとして有益だ。有病率を人為的に高めたテストデータセットでは高い精度を示す。

ところがASがまれにしかいない一般の人を対象に行うと、最も優れた機械学習モデルでも、陽性適中率(検査陽性者における真の陽性者〔患者〕の割合)はわずか1.4%。対象者を絞り込み、予測率を高めて診断を迅速化するには、複数モデルの長期にわたる利用が必要になるだろう。

機械学習モデルが正確で信頼できる結果を導き出せるかどうかは、データの質の高さで決まる。だが、医療データは限定的なものになりかねない。原因はプライバシー保護や情報機密性、標準化できていないことだ。

重要なのは、この分野では機械学習は未成熟だと理解すること。さらなる発展を実現するには、より詳細なデータを収集して予測率や臨床的有用性を改善する必要がある。

それでも、筆者らの研究が示すように、機械学習はAS患者の特定や診断プロセスへの理解促進に貢献すると期待できる。

患者にとって最善の結果を確保するためには、早期発見・診断が不可欠なのは明らか。機械学習がその助けになるはずだ。同時に、現場の開業医にとって、より効果的で効率的な診断の強い味方になるだろう。

The Conversation

Jonathan Kennedy, Data Lab Manager, Swansea University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ウェルズ・ファーゴ第1四半期、純金利収入が予想未

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ氏の5月訪中、次男エリ

ビジネス

FRB利下げ27年まで延期の可能性、原油高次第=シ

ビジネス

ユーロ圏経済、基本・悪化シナリオの中間 金利政策は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中