最新記事

ルポ特別養子縁組

母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

一児の母となった久保田智子が語る、幸せのカタチとは(11月末、久保田の自宅にて撮影) PHOTOGRAPH BY MAYUMI SUZUKI FOR NEWSWEEK JAPAN

<特別養子縁組で母となったTBS元アナ・久保田智子が抱えていた「劣等感」とその先に見つけた幸せのカタチ、「養子」に対する社会の先入観と養子縁組家庭の真実とは。特集「ルポ特別養子縁組」全文を前後編に分けて公開する(こちらはルポ後編です)>

※前編はこちら:TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ(ルポ前編)

血のつながりのない子供を「わが子」として愛せるのか。特別養子縁組を検討する人にとっては、気掛かりな点の1つだ。ハナちゃんと1年10カ月過ごしてきた久保田は、今となっては「毎日一緒にいるということの強さ、その連続性が、愛情を育むのかもしれない」と思う。
20201222Issue_cover200.jpg
今年11月のある日の夕方、キッチンに立ちハナちゃんのためにハンバーグを作る久保田の姿は、古くから世間に流布する「幸せなお母さん」像そのものだ。心の声をつぶやくかのように、「何だろう、ハナちゃんがいて、本当に幸せだなぁって......思うんだよね」と言う。

だがあの頃、ハナちゃんをわが家に迎えた当初は、「母と子」というずっと憧れていた「夢の世界」に浸る一方で、「お母さんって、これで合っているのかな」と、自信がなかった。「自分からは『ママだよ』って、どうしても言えなかった。そんなこと言っちゃいけないんじゃないかと、ずっと思っていた」

出産という赤ちゃんとの共同作業を経ていないため、「どんなに他のママたちと同様に懸命にミルクをあげ、オムツを替え、夜泣きをすればずっと抱きかかえて過ごしても、どこかママごっこでもさせてもらっているかのような虚構感が私を襲うのです」――そう久保田自身がつづった原稿が、私の手元にある。

当時、本誌にコラムニストとして寄稿していた彼女に、子供のことを文章にしたいという気持ちになったら何でもいいから書いてみてほしいと依頼していたのだ。「ご縁がありまして養子を授かりました。いま私はとても幸せです」ついに公開するに至らなかったその原稿は、そう書きだされる。

「早く公表したいと思いながら、この始まりの2行を素直に書けるようになるまで3カ月もかかってしまいました。......ハナコのことがとてもかわいいし、私は今までに感じたことのない幸福感を日々味わっています。でも、自分が産んでいないことへの劣等感のため、自分の幸せを素直に肯定できなかったのです」

久保田の劣等感は、「おなかを痛めて産んでこそ母になる」という社会に根強い概念を上書きする論理を自分がまだ持っていなかったことに加えて、特別養子縁組は「子供のための制度である」というもう1つの概念にも根差していた。子供を授かりたい親のための制度ではない、そう言われると、親になった喜びを受け入れるより先に、子供のために「いいママ」になれているのだろうかという不安が押し寄せる。

母乳をあげるなど物理的にできないことに直面すると、他の母たち以上に努力しなければと必死になった。児童相談所の職員による家庭訪問を受けると、母親として信頼できるのか、合格点かを点検されているようにさえ思えた。決められたマニュアルに従い、模範的な母親になって初めて多くの「母と子」と同じスタートラインに立てる――そう焦るなかでがんじがらめになっていた。

ニュース速報

ワールド

カナダ貿易収支、4月は輸出量が過去最高 黒字大幅拡

ビジネス

米アマゾン、「プライム・ビデオ」で広告付きプラン計

ワールド

米制裁対象の香港長官、11月開催のAPEC参加巡り

ワールド

エア・インディア、ロシアに緊急着陸で代替機を派遣

MAGAZINE

特集:最新予測 米大統領選

2023年6月13日号(6/ 6発売)

トランプ、デサンティス、ペンス......名乗りを上げる共和党候補。超高齢の現職バイデンは2024年に勝てるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 2

    【動画・閲覧注意】15歳の女性サーファー、サメに襲われ6針縫う大けがを負う...足には生々しい傷跡

  • 3

    ウクライナの二正面作戦でロシアは股裂き状態

  • 4

    性行為の欧州選手権が開催決定...ライブ配信も予定..…

  • 5

    ワグネルは撤収と見せかけてクーデーターの機会を狙…

  • 6

    自社株買いでストップ高!「日本株」の評価が変わり…

  • 7

    プーチンは体の病気ではなく心の病気?──元警護官が…

  • 8

    いま株価が上昇するのは「当たり前」...株高の「現実…

  • 9

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 10

    メーガン妃が「絶対に誰にも見られたくなかった写真…

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 3

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで追い込まれた? 迫る「決断の日」

  • 4

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 5

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 6

    敗訴ヘンリー王子、巨額「裁判費用」の悪夢...最大20…

  • 7

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 8

    ワグネルは撤収と見せかけてクーデーターの機会を狙…

  • 9

    どんぶりを余裕で覆う14本足の巨大甲殻類、台北のラ…

  • 10

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎ…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 3

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半で閉館のスター・ウォーズホテル、一体どれだけ高かったのか?

  • 4

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 5

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 6

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 7

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

  • 8

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 9

    預け荷物からヘビ22匹と1匹の...旅客、到着先の空港…

  • 10

    キャサリン妃が戴冠式で義理の母に捧げた「ささやか…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中