最新記事

ルポ特別養子縁組

TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

「子供のための制度」――後にこの概念が、母となった久保田の心をがんじがらめにしていく。しかしこの時の久保田は、不安を抱きながらも、熟慮の上で「どんな子供でも大切に育てます」と鈴木に伝えた。既に固まっていた2人の決断を後押ししたのは、平本の兄夫婦の言葉だった。

平本は言う。「おふくろからは反対された。養子を育てるなんて大変だろうし、2人で幸せに生きていけばいいじゃない、と。その後、話し合う時間を持てないまま母は亡くなってしまい、とても悩んだが、その時に考えたのは今後自分が人生を共にしていくのは母親ではなく5歳上の兄貴だということ。久保田家もそうだが、迎え入れる子供を兄夫婦がファミリーとして歓迎してくれるかは、僕にとっては重要だった」

子供を産んで育てている平本の義姉が、久保田が鈴木に返事をする前日に言ってくれたひとことは、平本と久保田をその後も支えている。「産むことによっても家族になるけど、育てて初めて愛着は湧くから」――。

19年1月23 日、ハナちゃんが誕生した。12月中に家庭訪問や研修を終え、養親として本登録を済ませていた久保田は、この日を迎えるまで毎日24時間、子供のことしか頭になかった。鈴木から、「1月末に生まれる子供」の受け入れを打診されていたからだ。

「とにかく元気に生まれてきてほしい。もう、本当にそれだけ」。ハナちゃん誕生前夜の1月22日に久保田に会うと、彼女はそう言って祈るように手を合わせた。いつ生まれてもおかしくないと、夕食中も時おり携帯電話に目をやる。

ただし、この時にはハナちゃんに出会えるかどうか、まだ不確定要素が存在していた。特別養子縁組の成立要件として特段の事由がない限り実親の同意が必須で、産んだ後に母性が芽生え翻意するケースもある。鈴木からは、赤ちゃんグッズはまだ買わないようにとも言われていた。

ネットで調べられるものは調べ尽くして、「ロンパース」とは何かを初めて知り、落ち着かない日々を過ごしていた久保田に鈴木から「無事に生まれました」とメールが届いたのは翌日のことだ。鈴木から送られてきた写真を目にしたときの心境を、久保田はこう振り返った。

「もちろんすごくうれしかった。でも同時に、生まれたばかりの赤ちゃんを見て、私はこの子にちゃんと愛情を注げるんだろうかと。そこが一番不安だったかもしれない」。彼女は言葉を探すように続ける。

「......産むという行為をしていないから。10 カ月間育まれた待ち遠しさみたいなものもないし、全てがぽんぽんと決まっていって。そこで写真としてパッと送られてきても、やっぱり遠い存在なんだよね」

それでも、心に確かな動きを感じた。それまで「赤ちゃん」といっても漠然としたイメージだったのが、写真を見て一気に「この子」に変わったという。「私はこの子と人生を共にしていくんだなって。不安になったというより現実に戻った感じだった」

※続きはこちら:
母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実(後編)
<母になった久保田はなぜ「劣等感」を抱えることになったのか、その先に見つけた幸せのカタチ、養子当事者が語った「本音」と、養子縁組家庭の真実とは――>

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中