最新記事

日本社会

アフターピル市販で「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い 日本の医療、年配男性の「有識者」が決めている

2020年10月25日(日)12時36分
久住 英二(ナビタスクリニック内科医師) *東洋経済オンラインからの転載

アフターピルは欧米やアジア諸国90カ国以上ではすでに市販薬化されているが…… Antonio_Diaz - iStockphoto

若い人たちからは特に「アフターピル」と呼ばれ、認知度が高まりつつある緊急避妊薬。それを市販薬(OTC薬)とする方針が、10月8日報じられた。内閣府は8日、女性の社会参画に関する有識者会議で示した「第5次男女共同参画基本計画」案に、以下のように明記したという。

「避妊をしなかった、または避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じ、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する」

「アフターピル後進国」の日本

アフターピルは、性交渉の後72時間以内に服用することで妊娠を高い確率で回避する。現在は原則として医師の処方箋なしには購入できない、いわゆる処方薬だ。一方、欧米やアジア諸国90カ国以上ではすでにOTC化されている。風邪薬や胃薬と同様、薬局に出向けば簡単に手に入るのだ。日本は完全に「アフターピル後進国」なのである。

ナビタスクリニックではOTC化の早期実現は難しいと判断し、2018年からオンライン診療・処方を続けてきた。緊急性や必要性を考え、性交渉から120時間後まで効果の得られる個人輸入薬も用意して、女性たちの切実なニーズに最大限応じてきたつもりだ。2019年には152件のオンライン受診者にアフターピルを処方、発送した。

今回の内閣府の発表を聞いて、ようやく肩の荷が下りたと思った。

だが、少し引っかかったのは、それに続く厚労相会見の報道だ。田村憲久厚労相は、閣議後の記者会見で、「これまでの議論を踏まえ、しっかり検討していく」「期限を区切ってとは考えていない」と発言した。

厚労相の言う「これまでの議論」が、オンライン診療をめぐる厚労省検討会でのやり取りを指すことは間違いない。多くの"有識者"が、アフターピルについてはOTC化どころかオンライン診療でさえ、全面解禁に難色を示してきた。

また、解禁の時期について、厚労相があえて見通しを示さなかったのも気になった。実は10月7日時点の報道では、政府方針として「2021年にも導入する」とあった。しかし8~9日の内閣府案報道では、その文言はなくなっていた。そればかりか、薬剤師の対面で服用する条件が付いたという。厚労省検討会を大幅に加味した最終調整が行われた、と見るのが普通だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中