最新記事

教育

教員の給与を改善しなければ、優秀な人材を教育現場に集めることはできない

2021年12月1日(水)11時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
日本の教室

教員養成大学の学費を無償にするといった対策も取れるはず xavierarnau/iStock.

<全国の7割の都道府県で、公立小学校の教員の月収は同年齢の大卒労働者より低い>

戦前の教員養成は師範学校で行われていた。学費は無償で生活費も支給。勉強が好きでも家が貧しくて上級学校に進学できない子どもの受け皿として機能していた。その上、卒業後の教員就職率はほぼ100%で、今から見ると至れり尽くせりの感がある。

だが、それでも生徒の集まりはよくなかった。教員の待遇がものすごく悪かったためだ。戦前の新聞で教員の生活状況がどうだったかを探ってみると、「食物さへ十分でない」「弁当はパン半巾」「結核死亡率高し」「一家離散」といった記事が多く出てくる。教員になるのを強いられた青年が自殺する事件も起きていた。

戦後になっても、本業だけでは食えず同僚や教え子に見つからぬかとビクビクしながら靴磨きのバイトに精を出す教員もいた。高度経済成長期でも、民間と比べて薄給なのは明らかで「デモシカ教師」(教師でもなるか、教師しかなれない、の意味)という言葉が流行ったのはよく知られている。

これではいけないと、1970年代に教員の待遇を改善する法律ができ、状況は次第に改善されてきた。昔のように、絶対的貧困の状態に置かれる教員はいない。だが、民間と比べてどうなのかはデータであまり明らかにされていない。教員不足を解消するため、教員を魅力ある職業にする方針が掲げられているが、給与はどうかというのも無視できない要素だ。

教員の給与は、文科省の『学校教員統計』に出ている。最新の2019年版によると、同年6月の公立小学校男性本務教員の平均月収(本俸)は34.9万円だ。当然、全国一律ではなく自治体によって異なる。47都道府県の数値を高い順に並べると<表1>のようになる。

data211201-chart01.png

最も高いのは秋田の39.1万円で、首都の東京の33.1万円よりだいぶ高い。これは年齢構成の違いによるものだ(都市部では団塊世代の大量退職により若い新採教員が増えている)。22歳に平均勤続年数を足して平均年齢を推定すると秋田は47.4歳、東京は35.9歳となる。

これを、同年齢の大卒男性労働者の平均月収と比べてみる。<表1>によると、全国の公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円で、推定平均年齢は39.7歳。2019年の厚労省『賃金構造基本統計』によると、30代後半の大卒男性労働者の所定内月収は37.7万円。小学校教員の月収は、同条件の労働者全体より少し低い。

東京だと、公立小学校男性教員の月収は33.1万円で平均年齢は35.9歳。東京の30代後半大卒男性の月収は46.3万円。東京の教員給与は民間の7割ほどでしかない。秋田の場合、小学校男性教員の月収は39.1万円で平均年齢は47.4歳。40代後半の大卒男性労働者の月収(36.8万円)をやや上回る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中