最新記事
熊嵐

冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起こす人喰いの連鎖

2025年11月10日(月)12時55分
中山 茂大(ノンフィクション作家、人喰い熊評論家)*PRESIDENT Onlineからの転載

「丘珠ヒグマ事件」の真相

今ひとつ、同じ『開拓使公文録』に以下の記録がある。


警察課 札幌警察署 本月十一日、山鼻村において当地寄留の蛯子勝太郎を殺害、喰い殺した悪熊を討ち獲った者より申し付けられたところによれば、本月十二日に右熊は、平岸村より月寒村および白石村を経て雁来村で足跡を見失ってしまったが、本月十八日、丘珠村居住の堺倉吉の小家へ乱入、戸主倉吉並びに同人長男留吉を殺害、他に二人へ重傷を負わせ(後略)(取裁録 明治11年1月19日)

「他に二人へ重傷を負わせ」とは、利津と酉蔵のことだろう。この文書では、酉蔵は重傷ながら生きながらえたことになっているが、実際には19日に死亡した。おそらく情報が行き違いになってしまったのだろう。


また利津とともに逃れた「雇い人の女」とは、たまたま居候していた「お嘉代」のことかもしれない。

これまでの諸説では、この事件で死亡したのは3人で、その内訳は「倉吉、留吉、蛯子勝太郎」(犬飼哲夫、門崎允昭説)、あるいは「倉吉、留吉、雇人酉蔵」(八田三郎説)で食い違いが見られた。

しかし以上に示した資料を総合すると、犠牲者は「倉吉、留吉、酉蔵、蛯子勝太郎」となり、丘珠事件における人的被害は、死者4人、負傷者1人というのが正しい。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg


ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初

ワールド

韓国電池材料L&F、テスラとの契約額大幅引き下げ 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中