最新記事
音楽ビジネス

K-POP最大の授賞式MAMAはなぜ「日本で開催」された? 国と世代の壁を打ち破った「ENDLESS RAIN」

MUSIC MAKES US ONE

2023年12月13日(水)18時07分
権容奭(クォン・ヨンソク、一橋大学大学院准教授)

231219P30_JSO_06.jpg

ハン・ユジン、アントン、ジェヒョン、YOSHIKI、テヒョン(写真)、ヒュニンカイが「ENDLESS RAIN」を披露 ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

19年、22年に続く日本での開催は、グローバル戦略における日本重視の表れともいえる。世界2位の音楽市場を誇る日本は、Kポップの最大輸出国。お得意さんを大切にするのは商売の基本だが、日本での成功が世界での成功につながるとの認識もある。日本は文化や技術で先に世界の扉をたたいた先輩で、高い水準で協働できるアジア唯一のパートナーだ。

世代を超え音楽で一つに

日本側の思惑もあるだろう。昨今のブームを「Kポップの侵略」と捉える向きもあるが、グローバル文化となったKポップとのコラボは、Jポップの宣伝とビジネスチャンスになる。また、ジャニーズの凋落に象徴される「革新と挑戦」が必要な時期に、Kポップは変革を促す「最強助っ人」になるかもしれない。

とはいえグローバル戦略とビジネスマインドだけで成功できるわけではない。ここでKポップ人気のそもそもの理由と魅力について、MAMAを例に触れよう。まずは毎回それぞれ独創的なコンセプトを提示していること。次に、Kポップの代名詞ともなった「主体的なファンダム」と「善良な影響力」という価値観だ。

世界中のファンが投票する「Worldwide Fansʼ Choice」部門では、結果に応じてアーティストとファンダムの名で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)とCJ社が取り組む途上国の少女たちの教育環境改善キャンペーンに寄付がなされる。今年はBTS、Stray Kids(ストレイキッズ)やKトロット(演歌)の英雄イム・ヨンウンなどが受賞した。

そして何より重要なのは音楽だ。今回のハイライトはFavorite International Artistを受賞したYOSHIKIとKポップアイドルのコラボによる「ENDLESS RAIN」だった。YOSHIKIの優麗なピアノの旋律に合わせてTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)のテヒョンとヒュニンカイが全身全霊を込めて見事に歌い上げる。「続けて」が「ちゅじゅけて」に聞こえる韓国なまりがまたいい。

231219P30_JSO_05.jpg

ヒュニンカイ ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

これで終わらないのがKポップ。なんと、ロックバラードの神曲にBOYNEXTDOOR(ボーイネクストドア)のジェヒョンが韓国語でラップを仕掛ける。「やるなあ」と思った矢先に、RIIZE(ライズ)のアントンがチェロで美しすぎる旋律を奏で、最後にはZEROBASEONE(ゼロベースワン)のハン・ユジンが羽生結弦を彷彿とさせる華麗な舞を披露する。

極め付きは、全出演者と観客との合唱......まさに、国境、人種、世代を越え音楽で一つになる「Music MaKes ONE」というMAMAの理念を体現した最高の舞台だった。

231219P30_JSO_01Bv2.jpg

YOSHIKI ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

231219P30_JSO_04.jpg

ジェヒョン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

231219P30_JSO_02.jpg

アントン ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

「宇宙一素晴らしいコラボレーション」という声は決して誇張ではない。真のコラボはただのカラオケと違って、「挑戦と革新」を通じて音楽に新たな生命を吹き込む。

231219P30_JSO_03.jpg

ハン・ユジンが舞った ©CJ ENM CO., LTD, ALL RIGHTS RESERVED

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府機関の一部閉鎖始まる、党派対立でつなぎ予算不

ビジネス

日産が「エクステラ」復活と売れ筋2車種の強化検討、

ワールド

G7財務相、ロシアへの圧力強める姿勢を共有=加藤財

ビジネス

米ADP民間雇用、9月ー3.2万人で予想に反し減少
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 5
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中