二宮和也×監督対談『ラーゲリより愛を込めて』 瀬々敬久「二宮くんからお願いされたこと」

HOPE, BONDING AND LOVE

2022年12月14日(水)11時15分
大橋 希(本誌記者)

magSR20221214filmtalk-3.jpg

©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子

瀬々 今回はレギュラーの抑留者が60人くらいいるのを3グループに分け、撮影しました。彼らもオーディションで選ばれ、その個性が主役とどう絡んでいくかというのがある。群像物はやっぱり一人一人を生き生きさせないと活気づかない。ラーゲリでも寝床の上段や部屋の奥にいるのが偉い人なので、「どこにいるか」という位置関係は重要なんです。

二宮 現地参加のエキストラの方々もいるんですが、設定に合わない人がいると、瀬々さんはとにかく奥に配置してバランスを調整する。細かいところまで徹底されているなと思いながら見ていました。

それに瀬々さんはメインキャストであろうと捕虜チームの人間だろうと、意見は平等にくみ取ってくれる。僕ら俳優はどんなに年数がたとうと現場仕事は変わらず、上の立場に行くことはないので、そういう人間からすればこれだけ心強い人はいない。

僕の意見と、監督の意見と、制作の意見が全くかみ合わないときは「うーん、どうしよう。その間を取るにはどうしたらいいんだ」と、一緒に考えてくれる姿もチャーミングでしたね。監督の中には、自分の意見についてきてほしいという人もいれば、みんなが納得して次のステップに行くには?と考えてくれる人もいて。後者のほうが、みんなで作品を作り上げていく感じがして、終始高いモチベーションで撮影ができると思います。

瀬々 僕は俳優の意見をいつも信じている。基本的に勘がいいし、言うことにはだいたい一理あるのでやってもらうことが多い。やってみて違う場合はやめるけど。

――二宮さんから監督に何か提案したことは?

二宮 ありました?

瀬々 確か2つあった。1つは「戦争ってひどいもんですね」というセリフ。(松坂)桃李くんが病室に来て、「花を摘んできました。きれいだったんで」と言うと、病床で書き物をしている二宮くんが突然顔をくしゃくしゃにして訴える場面です。

最初に会った日に、「こういうことを言いたい」みたいなことを言ってたんですよね?

二宮 そうでしたね。山本さんをあまり完全な人にしたくなかったので。人間はどこか不完全で、だからこそ戦争が起きている。いくらいい人でも完全ではないから、人間らしい弱いところをちゃんと見せたいと思っていました。

瀬々 もう1つも同じようなことだったかな。ヒーローみたいに描きたくない、普通の人でありたい、と。

二宮 みんなでそういう認識で行けたらいいですと、お願いしました。

僕は実話や実在する人物を演じる機会が多いんですが、その人物が素晴らしかったとたたえるだけだと、歴史の授業みたいになってしまう。われわれと同じ人間なのに、こんなにすごいことができたっていうことを伝えたい。

聖人君子みたいには描きたくないけど、それでも「すごいな」と自分が思わないと、すごい人はなかなか演じられない。山本さんの人生を見て、「そういう人もいるんだろうな」ぐらいでやるとピントが甘くなる。

その上で、自分がすごいと感じたところを「すごいだろ」というふうに表現しないためにはどうしたらいいのかを、現場で瀬々さんと一緒に考えました。

でも、今回はそれがわりとスムーズにできた。演技が素晴らしい共演者ばかりだったので、自分が(ボールを)ポンって投げたらそれで延々と遊んでくれる。みんなに助けてもらうようなお芝居のやりとりだったので、楽しかったです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBは景気停滞対応へ利下げ再開を、イタリア予算案

ワールド

ガザ支援船、イスラエル軍が残る1隻も拿捕

ビジネス

世界食糧価格指数、9月は下落 砂糖や乳製品が下落

ワールド

ドローン目撃で一時閉鎖、独ミュンヘン空港 州首相「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 10
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中