最新記事

映画

高級ホテルでの情欲と麻薬の一夜...バイデン親子がモデルのトンデモ妄想映画

A Conservative Fairytale

2022年9月28日(水)17時45分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

221004p50_HBD_01.jpg

父のジョーは権力をカサに着て陰謀を巡らす UNREPORTED STORY SOCIETY

薄っぺらい悪人と告発者しかいないキャラクターの中で、少しでも深みのある人物はハンター1人。ドナルド・トランプJr.を思わせるどら息子だが、父親が重んじる家族の名誉を必死で守ろうとする。

ジョー・バイデン役は、1980年代のメロドラマ『ダイナスティ』が代表作のジョン・ジェームズ。出番は息子より少ないが、物語を動かすのは大統領とその陰謀だ。

映画の中のバイデンはまぬけな老いぼれだが、世界を操る策略家でもある。簡単な会話もおぼつかないのに、陰では大国の首脳を手玉に取っているのだから、不思議な話だ。

自他共に認める保守派のロバート・ダビ監督は、今回アダム・マッケイ監督(『バイス』)の作風を模倣したらしい。スピーディーに切り替わるマッケイ風の映像に陰謀論を盛り込み、「真実」を見ろと観客に迫る。

鬱病で薬物依存の男が高級ホテルでくだを巻くだけの話だと思ったら、大間違い。男は世界で最も邪悪な一家の御曹司なのだ。

増える右派メディアによる映画製作

ハンターの裏の顔を浮かび上がらせるのは、ストリッパーのキティだ。リベラルだったはずのキティはハンターの話を聞いた後、バイデン帝国の悪行を暴くことを決意する。

その彼女にハンターのボディーガードのタイロンが、バイデン家について探るなら主要メディアではなく右翼サイトがいいと入れ知恵する。

タイロンは唯一の黒人キャラだ。黒人が右翼サイトを推す皮肉をキティに指摘されると、「私は白人至上主義の黒人代表なんだ」と自嘲する。そうしたサイトでキティがどんな情報を見つけようが偏向しているはずはない、何しろ黒人が薦めたのだから、とでも言いたげな一コマだ。

映画に参入する右派メディアはブライトバートだけではない。FOXニュース傘下の配信サービスFOXネーションは、初のオリジナル映画となるラブロマンス『シェルコレクター』を公開した。右派サイトのデイリー・ワイヤーは今年3本のオリジナル長編を配信し、うち1本には前出のカラーノが主演している。

ターゲットは保守思想に染まった層だろう。共和党はトランプ政権時代に、新たに有権者を引き入れる必要がないと気付いた。右派向けのメディアを充実させ、今いる支持者を囲い込めば十分だ。

『わが息子』は途方もない夢物語で終わる。トランプの盟友ルディ・ジュリアーニがパソコンの中身を暴露し、バイデン一家の国際的陰謀を白日の下にさらす。そして、20年の大統領選でトランプが再選されるという「もう1つの歴史」が描かれるのだ。

エンドロールの直前、キティが観客に向かって甘い声でささやく。「真実が、おとぎ話に変わったのかもね」

真実をこんなおとぎ話に変えられるなら、右翼メディアは大喜びだろう。

©2022 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本供与のエムポックスワクチン、3分の1が廃棄 コ

ワールド

焦点:米航空会社、感謝祭目前で政府閉鎖の影響に苦慮

ワールド

アングル:ガザ「分断」長期化の恐れ、課題山積で和平

ビジネス

国内外の不確実性、今年のGDPに0.5%影響=仏中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中