最新記事

映画

コメディー映画『ドント・ルック・アップ』が描く、強烈にリアルな「彗星衝突」危機

A Prescient Warning

2022年1月19日(水)17時25分
タイラー・オースティン・ハーパー
『ドント・ルック・アップ』

ディカプリオ扮する天文学者ミンディ(左)らは大惨事を防ごうと奮闘 NIKO TAVERNISE/NETFLIX

<ディカプリオ主演『ドント・ルック・アップ』が暗示する、気候変動問題をめぐる政治の怠慢とIT長者たちの傲慢>

昨年末のクリスマス休暇に合わせてネットフリックスが配信した映画『ドント・ルック・アップ』(アダム・マッケイ監督)は、もちろんコメディーだ。楽しくなければ新年を迎えられないから、それは当然。でも、実は腹を抱えて笑える話ではなかった。

巨大彗星が地球に激突するリスクが高まっていて、その深刻な危機に気付いた天文学を研究する大学院生ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)と教授ランドール・ミンディ(レオナルド・ディカプリオ)が、ホワイトハウスに出向いて米大統領のジャニー・オルレアン(メリル・ストリープ)に進言する。だが当然、信じてはもらえない。

首席補佐官を務める大統領の息子はまるで無関心だし、大統領自身も、中間選挙を控えている時期に縁起でもない話をしないでくれと一蹴する。対策はできているとNASA惑星防衛調整室のテディ・オグルソープ長官(ロブ・モーガン)が言っても、大統領は中間選挙が終わるまでは「動くな」と命ずる。

こんな展開を見れば、評論家の多くがこの映画に、気候変動に対するアメリカ政府の無知・無関心への鋭い批判を感じ取ったのは当然だろう。なにしろ今はネット上にあふれる無責任な言論が科学的な真実を覆い隠し、その状況を利用して政治家や財界人が私服を肥やしている時代。そんな風潮に、人気俳優を起用した映画で一矢報いるという発想は、まあ悪くない。

大富豪が地球を救う?

でも、この映画をアメリカの気候変動政策に対する辛辣なパロディーと決め付けるのは間違いだ。それではもっと深刻な、ちょっと気取った言い方をすれば「人類の直面する実存的危機」の問題が見えなくなる。

もちろん気候変動は重大な危機だが、核兵器の拡散や人工知能(AI)の暴走も、そして巨大彗星の衝突も人類の存亡に関わる深刻な危機だ。新型コロナよりずっと致死的なウイルスが出現する可能性だって否定できない。

実を言うと『ドント・ルック・アップ』は、こうした実存的危機に対して私たちがいかに準備不足で無防備かをリアルに描いている。また、危機に際して決断を(科学者ではなく)政治家や実業家に委ねることの危険性も指摘する。

この危険性を体現するのが、本作に登場するシリコンバレーの大物、ピーター・イッシャーウェルの存在だ。地球に突進してくる彗星がスマートフォンや半導体の製造に不可欠な「32兆ドル相当の資源」を含んでいることを知った彼は、核兵器で彗星を破壊するというNASAの作戦を中止するよう、大統領に進言する。その結果、政府はイッシャーウェルの会社「バッシュ」と手を組んで、彗星を砕いて資源を採取する計画を進める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中