「藝大からマンガ家」の『ブルーピリオド』作者と「絵で食べていく」完売画家が語った美術業界の今

2021年12月28日(火)11時30分
朴順梨(ライター)

nakajima_yamaguchi_20211228-3.jpg

中島健太氏の学生時代の模写「アンドリュー・ワイエス」変形サイズ

「『完売画家』には中島さんの強い覚悟を感じた」

山口 ところで、私も『完売画家』読ませていただきましたよ(笑)。前からそんな気はしていましたが、改めて中島さんは熱い人だなって思いました。

最初に話した美大特有の同調圧力の中に「お金に関する話はタブー」というのが根強くあるけれど、中島さんはそこに対する違和感を強く持っている。同調圧力が蔓延する空気の中で抵抗したり主張することの難しさというか、それをやっている人、やれる人が他にあまりいないから、強い覚悟を感じました。

中島 覚悟と言うとかっこいいんですけど、僕にとってはもっとシンプルな話で、「30年後も今のままなら業界自体の存続が無理でしょ」という実感を持っているんです。

村人同士で顔色を窺いつつ、今のままではまずいことは、本当はみんな分かっている。みんな何かしないといけないと思っているのに、矢面に立つリスクは取りたくない。

そんな中で僕がずっと「このままじゃだめだ」と主張していると、「あいつはそういうキャラなんだ」というのが定着してきて、最初こそ打たれるんですけど、だんだんと打たれる杭になるどころか、賛同者や同調者が増えていって......。

最近で言えば、「ARTIST NEW GATE」という新人アーティストの登竜門コンテストを創設できました。実際はみんな何かをしなければいけないのは分かっているから、矢面に立つ人間と具体的なビジョンがあれば、人は結構付いてきてくれるのだと今は確信しています。

山口 『完売画家』は、分かるなと共感する部分もあれば、自分と違う部分もあるという感じで読みました。中島さんはYouTubeで自分の収入を言ったりと、お金の話をすることに誠実に向き合っていて、それはすごい現代的だと思います。

食べていける人が少ない村社会の中で、いろいろ言われることもあると思いますが、私はこの本は重要な1冊だと思っています。

中島 嬉しい!

山口 アーティストがお金の話をするのは難しいと思いますが、中島さんは「こうすればアートで儲かる」みたいな話ではなく、生きてくためのコスト管理をちゃんと書いてくれています。

だからこの本があってよかったと思うし、大学の時に読んでたら、いろいろな意味でものの見え方が違っていたと思う。藝大や美大が話したくないことを隠さずに書いている、大事な1冊だなって。

隠さないとならないことがある業界は、今後は持たない。この本は誰もが変革が必要だと思ってるところに、必要な情報を提供していると感じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ肥満症経口薬、イーライリリーとの競争で出だし好

ビジネス

11月の機械受注は前月比11%減、2020年4月以

ワールド

ロシア、ドローン生産の大幅増計画 和平に関心なし=

ワールド

米がグリーンランド「侵攻」ならプーチン氏喜ばせる=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中