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「明治維新は薩長によるテロ」 『青天を衝け』で維新賛美の歴史観から脱却したNHK

渋沢栄一の像

<これまでのNHK大河ドラマは、どれも明治維新を賛美するものだった。しかし現在放送中の『青天を衝け』は違う。歴史評論家の香原斗志さんは「『青天を衝け』は明治維新を薩長によるテロとして描いている。非常に画期的なことで、もっと注目されるべきだろう」という――>

明治政府は「勝者」によってつくられた

身分に縛られ、年貢など重い課役に苦しめられる封建制を壊し、開明的な世のなかを実現して、近代化への道筋をつくった――。そんなふうに明治維新をポジティブに受け入れている人が多い。

実際、学校でもそう教えている。

文科省中学学習指導要領には、「明治維新と近代国家の形成」という単元で学ぶ目標について、「明治維新によって近代国家の基礎が整えられて、人々の生活が大きく変化したことを理解すること」と明記。さらには、「近代国家を形成していった政府や人々の努力に気付かせるようにすること」とまで書かれている(注1)。

その記述を間違いとまでは言えない。だが、「明治維新」が「近代国家を形成」するための唯一の道だったのか、と言う問いには、私は強く「否」を唱えたい。

なぜなら、明治維新とは、すでに幕藩体制が終焉し、挙国一致で近代化を進めようとしていたにもかかわらず、主導権を握りたい薩摩藩や長州藩、一部の公卿が強引に起こしたものだからである。

「歴史とは勝者の歴史」という言葉を思い出してほしい。歴史とは、勝った側が残したい記録だけを記したものだという意味で、この場合の勝者は明治政府である。

明治政府の歴史観は、いまの政府も継承している。

事実、日本の政治システムは、明治政府が導入した内閣制度、立憲および議会政治の流れを汲んでおり、その姿勢は、2018年に「明治150年」を祝った際の「明治の歩みをつなぐ、つたえる」というキャッチコピーに、象徴的に表れている(注2)。

しかし、「明治の歩み」は、無批判に「つなぐ」「つたえる」対象にするにしては、あまりにも謀略的、暴力的で、血なまぐさく、モラルに欠ける。

そして、意外にも、そのことをいまNHKがわかりやすく伝えている。実業家の渋沢栄一を主人公にした大河ドラマ『青天を衝け』である。

維新を賛美する「司馬史観」からの脱却

これまで幕末から明治期を描いた大河ドラマは、1968年の『竜馬がゆく』を皮切りに、大村益次郎を描いた『花神』(1977年)、西郷隆盛と大久保利通が中心の『翔ぶが如く』(1990年)、『徳川慶喜』(1998年)と、司馬遼太郎が原作のものが多かった。

司馬遼太郎による歴史の見方は俗に「司馬史観」と呼ばれる。

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