最新記事

韓国ドラマ

『愛の不時着』の魅力を元CIA工作員が読み解く...世界的な変化を見事に捉えた普遍的な物語

GLOBAL CRASH LANDING

2021年4月28日(水)19時18分
グレン・カール(元CIA工作員、本誌コラムニスト)

そうした物語の中で私たちは慣れ親しんだ日常が消え常識も通じない世界を訪れ、深い真実を発見する。不屈の精神で愛を成就させるセリとジョンヒョクを見て、大切な人への献身が希望と喜びを生むことを本能的に理解する。

複雑な生い立ちのせいで人を信じられなくなっていたセリはジョンヒョクへの愛に気付き、心を開いていく。何度も韓国に帰ろうとして果たせず絶望する彼女を、「家族」となったジョンヒョクの部下の4人組が慰め、一緒に頑張ろうと励ます。

210504p20_glo02.jpg

EVERETT COLLECTION/AFLO

試練さえも大切な人々と分かち合えば、いくら高級ブランドで着飾っても孤独だったソウルでの生活よりずっと豊かな暮らしが与えられるのだと、セリは気付く。北朝鮮の軍服を着た王子様でも財閥を率いるお姫様でもない私たちの心もまた、2人の愛の行方を見守ることで豊かになる。

北朝鮮は舞台として目新しく、ストーリーは共感しやすい。国境を越えても、人間のうぬぼれや権力志向は変わらない。北のエリートは洗練されたところをアピールしようと会話の端々にアメリカ英語を交ぜ、ソウルではセリの兄と兄嫁たちが仁義なき後継者争いに明け暮れる。

中流層の拡大が追い風に

南北の格差はユーモアを交えて描かれ、軍事境界線や政治的緊張はあくまでもストーリーを盛り上げる小道具として扱われる。韓国側の工作員がそろいもそろってステレオタイプな黒いスーツに黒いサングラスという格好なのは、元CIA工作員の私から見れば、ご愛嬌だ。

もっとも、韓国でドラマが作られるのは今に始まった話ではない。『愛の不時着』が世界で旋風を巻き起こした背景にはテクノロジーと社会と国際政治の根本的な変化がある。

インターネットを通じ世界の文化がリアルタイムで届くようになったのは、ここ15年ほどのことだ。世界のインターネット人口は2005年の約16 %から、現在は64%まで増加した。グローバリゼーションは1つの大きな世界文化を創り出し、その文化に親しむ中流層の拡大は止まらない。05年に約10億人だった中流層は、20年には30億を超えた。

『愛の不時着』を190カ国に配信するネットフリックスは、こうした変化を追い風に急成長した。05年に400万人だった契約者数は、20年に2億人を突破。人類史上初めて、億単位の人間が世界各地の映画やテレビ番組をいつでも手軽に見られるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中